日本政府の「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」は9月19日、報告書を取りまとめて防衛省に提出した。ロシアのウクライナ侵攻の長期化や中国・北朝鮮の活動活発化など、情勢がかつてない速度で変化する中で、日本の抑止力と対処力を抜本的に高める必要があると強調。無人アセットの本格導入、垂直発射装置(VLS)搭載潜水艦、太平洋側での防衛体制強化といった装備面に加え、組織改革、産業基盤、人材確保まで幅広い提言を盛り込んだ。
抑止力・対処力を底上げ
報告書は「戦争を起こさせない抑止力の確保が最重要」と明記。反撃能力を抑止の要と位置づけ、計画的な整備を求めた。併せて長期戦への備えとして継戦能力の確保が不可欠だとし、弾薬・燃料の備蓄態勢を強化するよう提言した。
ウクライナ戦争の教訓を踏まえ、無人機や無人水中システムの早期導入、AIを活用した運用モデルの構築、国産化も視野に入れた短サイクル開発の推進を要請。法制度上の制約を洗い出し、運用面の課題解決を急ぐべきだとした。
VLS搭載潜水艦と太平洋側の防衛強化
潜水艦については、長射程ミサイルの搭載を可能にするVLS搭載型の導入検討を提起。動力は従来方式にとらわれず、次世代動力の研究開発も進めるべきだとした。中国海軍の太平洋での空母運用を念頭に、太平洋側での防衛体制整備を急務と位置づけ、小笠原周辺での防空識別圏の設定や監視体制の強化にも言及した。
組織改革と人材の確保
統合作戦司令部の新設など組織改革を進め、無人化やAI導入を前提に最適な運用体制を構築する必要性を強調。自衛官の処遇改善や退職自衛官の再雇用拡大を通じて人材を確保し、宇宙・サイバー・AIに通じた専門人材の積極採用を促した。若年層への理解浸透に向け、SNSやVRを活用した広報も求めている。
防衛産業・技術基盤の強化
防衛産業を産業政策・経済安保政策の一環として位置づけるべきだとし、中小企業の参入促進や国営工廠の検討、産学官連携による研究開発の加速を提案。装備移転では「同志国・自由民主主義を共有する国への移転は制限を設けない考え方も一案」と踏み込み、国際共同開発やサプライチェーンの強靭化を進めるよう求めた。
また、防衛費増額が経済成長を牽引する「好循環」を生み出すべきだとして、防衛力強化と経済の関係を定量的に検証するEBPM(証拠に基づく政策立案)の推進を明記した。
国民への説明責任
「GDP比2%」の防衛費目標は国家意思の表れと評価。効率的な執行やコスト削減の努力を重ねつつ、国民に便益を分かりやすく説明することが重要だとした。防衛費は単なるコストではなく「将来を守るための投資」であり、理解の醸成を重視すべきだと結んでいる。
本報告書は、さらなる抜本強化に向けた中間的な提言。防衛省は今後、内容を踏まえ次期の防衛戦略・防衛力整備計画に反映させる見通しだ。
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