日本外国特派員協会(FCCJ)で9月19日、「日本のオンラインギャンブル法制、カジノリゾートと依存症問題」に関する記者会見が開かれた。登壇したのは、英国の遺族支援団体「ギャンブリング・ウィズ・ライブズ(Gambling with Lives)」共同創設者のリズ・リッチー氏(MBE)とチャールズ・リッチー氏(MBE)、国内の「ギャンブル依存症問題を考える会」代表・田中紀子氏。オンラインカジノ規制やIR整備が進む一方、依存症対策が大幅に遅れている実情が浮き彫りとなった。

英遺族が語る「公衆衛生上の危機」
リズ氏は2017年に息子をギャンブル依存に伴う自死で失った経緯を涙ながらに語り、「ギャンブルと自殺が結び付くことを知らなかった。同じ境遇の家族は英国にも多い」と訴えた。ギャンブル起因の死は「公衆衛生の危機」だと位置づけ、チャールズ氏も「推計で毎日1人がギャンブルを理由に命を落としている。依存性の高い商品を“安全な娯楽”として売り込む産業の責任は大きい」と強調した。
英国ではオンライン・スロットやカジノゲームなど、依存率が20%、リスク層を含めると45%に達する商品が一般流通しているという。「業界は最も危険なプロダクトを隠し、通常商品と同列に販売している」と批判し、監督権限を文化・メディア・スポーツ省から保健・福祉分野へ移すべきだと主張。2023年に創設された業界収益の1%拠出による治療・研究の賦課金制度についても「本来はより高率が必要だ」と述べた。

日本の対策費は「巨大市場」に見合わず
田中氏は日本の遅れを指摘する。「2018年のカジノ法成立時、政府は依存症対策を約束したが、実際の予算は厚労省で約8.4億円、内閣官房は数千万円規模にとどまる」。パチンコを含む合法市場は20兆円超、違法オンラインカジノも1兆円規模へ拡大する中で、対策費の乖離は大きいと強調した。警察庁と厚労省の統計では年間398人がギャンブル関連で自殺したとされるが、「原因判明は全体の2割に過ぎず、実数はさらに多い可能性が高い」と述べた。
違法オンラインカジノは法的に禁止されているものの罰則がなく、海外業者の参入が続く現状にも言及。「総務省によるサイトブロッキングの検討はあるが、抜本策には至っていない」。大阪・関西万博後のカジノ開業計画や「年末に2つ目の候補地が選ばれる」との見通しを挙げ、新政権が対策を強化するか注視しているとした。
若年層を狙う広告――「ドラッグ売人と同じ手口」
広告規制の効果に関する質問に対し、リッチー夫妻は「若者は友人の誘い、YouTubeやSNS広告からギャンブルに入る」と説明。進学や一人暮らしで自立が始まる18歳前後に「無料オファー」や過剰な誘引が集中している実態を示し、「ヘロインの売人が無料で配り依存に誘うのと同じ手口だ」と警鐘を鳴らした。
英国では広告禁止を支持する世論が多数派だが、業界やメディアの強いロビーで規制は停滞してきたという。「対峙すべき相手は業界だけでなく、広告収入を得るメディアでもある」と述べた。
犯罪との関連と国際的な広がり
田中氏は「日本でもオンラインカジノ利用者の46%が何らかの犯罪に関わったと回答している」と明らかにし、問題の根深さを指摘。英国でも司法当局と連携した調査が進んでいるという。
チャールズ氏は2005年に英国で計画された13のメガカジノが市民運動で全て阻止された例を紹介し、「経済効果は限定的で地域に富を残さない」と警告。欧州では広告禁止・制限の動きが広がっている現状にも触れた。
政治への働きかけと次の一手
夫妻は「改革を進めるには遺族が政治家へ直接声を届けることが不可欠」と強調。日本でも市民や家族が議員に働きかける必要があると訴えた。「依存症で命を落とす人をこれ以上出してはならない。政治が動くべきだ」として、会見を締めくくった。
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