今年は抗日戦争勝利80周年の節目であり、日中関係は一段と緊張を深めている。これに先立ち、両国で相次いだ暴力事件が政府高官の不満を高める中、日本の終戦記念日を前に、自民党の西村康稔元経済産業相が13日、東京・九段北の靖国神社を参拝し、北京の抗議を招いた。
8月13日夜、中国外交部アジア局の劉勁松局長は在中国日本大使館の横地晃首席公使と会談し、歴史問題や台湾、在日中国人の安全などについて深刻な懸念を表明。同日、日本大使館も会談内容を公表し、横地公使が日本政府の立場を説明するとともに、最近蘇州で発生した邦人負傷事件に言及し、中国側に邦人安全確保を強く求めた。
歴史や台湾を巡る問題では応酬が激しさを増している。広島原爆80周年記念式典では台湾代表が出席し、中国は欠席したことからも、両国関係の低迷がうかがえる。
一方、日本国内の極右団体は過去の戦争責任を政治的に美化する動きを繰り返している。北京にとって、極右政治家らが表向きには事実を受け入れながら、裏では靖国神社を参拝することは容認できない行為だ。

中国共産党は最近の内部会議で「侵略の歴史を美化してはならない」と強調し、国民に正しい歴史認識を持たせるよう教育・指導を行う方針を示した。
北京は民族主義的感情を巧みに利用して世論を盛り上げている。最近では映画『南京照相館』が各地でヒットし、官製メディアは日本の友好人士が中国に日中戦争関連の遺物を寄贈するニュースを相次ぎ報じている。これらは、中国が過去の歴史責任を日本に問い続けている姿勢を示すものだ。
ただし、政府間の摩擦があっても民間交流は続いている。中国のSNSでは「裕福な家庭の子は休暇に日本旅行、貧しい家庭の子は『南京照相館』を見て鬱憤を晴らす」という写真が拡散され、ネット時代特有の“変則的な侮中”ではないかとの声も上がっている。
表面的には、中国共産党は国内で高まる民族主義感情の鎮静化を図る一方、西側諸国には包容的な姿勢を見せて交流を進めている。しかし、ネット世論が流量で成り立つ時代においては、「戦狼型愛国主義」のほうが愛国心を示す手段として好まれやすく、現下の中国政治環境に潜在的なリスクをもたらしている。
新型コロナの流行収束後、多くの中国人が日本に渡り新たな生活の場を求めるようになった。その中には、「理想の中国」を海外で構築しようとする知識人も含まれる。こうした動きは北京にとって受け入れ難く、イデオロギーを重視する国家にとって、政府とは異なる価値観の構築は「反動的学術思想」の萌芽とみなされる。
現実には、北京は公式に「意図的な反日教育」を行っていると明言したことはない。これも中国式プロパガンダの巧妙な点である。

別の例として、江蘇省蘇州市で発生した日本人襲撃事件が挙げられる。この時、胡姓の女性が救助に駆け付け、中日両国の国民や政府関係者の注目を集めた。本来なら、この救助は歴史的感情面での溝をわずかに埋める契機となり得たが、中国式プロパガンダでは「政治的パフォーマンス」として演出され、胡氏への表彰は彼女の行為を称えると同時に、中国共産党の教育の成果を示す場ともなった。
「歴史を忘れることは裏切りである」という標語は、中国式教育宣伝の中で強く訴えられている。理性的な愛国心が常態化した教育の形ではなくなった今、「戦狼型愛国主義」が台頭している。
民間交流の良好さは、一定程度、政府間関係が以前と変わらないかどうかを映し出す。他の歴史問題においても同様である。
かつての尖閣諸島問題の際のように、数百万人規模のデモが発生することはなくなった。それは政治環境の変化によるだけでなく、新たな国際環境の中で日中関係を再解釈し、再構築する必要性を示している。
編集:梅木奈実 (関連記事: 台湾外交部長・林佳龍氏が高市早苗氏と会談 日本政権交代を見据えた賭け 中国反発で外交リスクも | 関連記事をもっと読む )
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