京華城事件で拘束された台湾民衆党前主席の柯文哲氏は、台北地方法院での審理の中で繰り返し、起訴を担当した林俊言検察官の説明を求めて声を上げた。しかし林氏は2024年12月26日の起訴直後に第7法廷へ一度出廷したのみで任務を終え、2025年8月末には新北地検署主任検察官へ昇進。事件からは身を引いた。
台北地検署は事件捜査のために精鋭「忠組」を動員し、特別捜査班を編成。総統経験者を対象にした最高検特捜組に匹敵する規模だった。だが、京華城事件の起訴後も地方法院での審理は続いており、検察側の評価は二分され、内部からも処理の拙さを指摘する声が出ている。

昇進で現場を離れる忠組検察官
ある検察官は「外ではもう自分が検察官だと言えない」と語り、またある経験豊富な検察官は事件処理について「検察官がまるで“過街のネズミ”のように扱われている。他の地検ならここまで雑な処理はしない」と述べた。検察官が最も憤っているのは、自らが異論封じの道具と見なされていることだ。
それでも忠組の検察官人事は動いた。8月28日付で主任の江貞瑜氏が台湾高検署検察官に昇進。林俊言氏と唐仲慶氏は主任検察官となり、それぞれ新北と花蓮の地検署に異動した。郭建鈺氏は裁判官に転任している。
こうした動きにより、柯氏が一審で林俊言氏の出廷を訴え続けても、すでに新北に赴任した林氏が再び登場することはない。今後、法廷で対峙する相手は「林俊言弟」と呼ばれる林俊廷主任検察官であり、陳思荔氏や李進榮氏とともに公訴を担う。

鄭銘謙部長、二審に向け布陣
この8か月間、法廷で柯氏や弁護団と応酬してきた廖彥鈞検察官は、捜査組に復帰。しかし事件に精通するため、検察長の王俊力氏は「最後の一里」を走り抜ける支援役として忠組に再配置した。
さらに法務部の鄭銘謙部長は、江貞瑜氏を台湾高検署に昇進させるなど、人事で二審に備えて布陣。今後、台北地方法院で有罪・無罪いずれの判断が下っても控訴が見込まれ、高検署の張斗輝検察長が江氏を二審公訴に起用する可能性が高い。これは馬英九元総統をめぐる「三中事件」と同様のパターンである。
江貞瑜氏(司法官第42期、台湾大学法学部出身)は京華城事件の公訴担当ではなかったが、捜査開始時に柯氏の自宅を捜索指揮するなど深く関わってきた。裁判での公訴能力にも定評があり、特に前検察総長・黄世銘氏の情報漏洩事件では鋭い追及を見せた。
鄭銘謙部長は「先手を打つ」姿勢で知られ、江氏を高検署に送り込むことで、二審で柯氏を追撃する体制を整えた形だ。

林俊言氏、昇進で「笑顔」を取り戻す
最高検の訴訟組から台北地検署に異動した林俊言検察官は、普段は口数が少なく、ほとんど笑顔を見せない人物だった。2024年8月に京華城事件の捜査が始まってからは、ほぼ忠組の執務室にこもり、事件処理に没頭。姿を見せるのは取調べや調査、あるいはトイレのときだけだったという。
その林氏が主任検察官に昇進することになり、内部では「鄭銘謙法務部長が必ず選ぶだろう」と見られていた。北検に“生え抜き”ではなかったため票を集めにくく、主任検察官選挙では140余票中70票あまりで第6位にとどまったが、上位候補が不祥事で失格となり、繰り上がりで名簿入り。最終的に部長が指名し、逆転で昇進を果たした。