2019年から2021年まで米国家安全保障会議(NSC)で副補佐官兼幕僚長を務めたアレクサンダー・グレイ氏は、8月に台北で開かれた「2025インド太平洋安全保障対話」(台湾外交部・遠景基金会共催)での演説を改稿し、米外交誌《The Diplomat》に寄稿した。
現在、戦略コンサル会社アメリカン・グローバル・ストラテジーズLLCのCEOを務めるグレイ氏は、「アメリカの台湾支援はいま重大な岐路に立っている」(America's Support for Taiwan Is at a Critical Juncture)と題した論考で、台湾に対する米国の長年の支援が危機に直面していると警鐘を鳴らした。
米国は数十年にわたり外交・経済・軍事面で台湾を後押しし、北京からの圧力に直面する中で島の自治や安全を守ってきた。米台関係はインド太平洋の平和と安定を支える礎であり、台湾防衛は米国の国益そのものだと強調した。
しかし今、その関係は揺らぎ始めている。原因は米国側の善意の欠如ではなく、ワシントンの認識変化と台湾海峡をめぐる軍事バランスの悪化だという。
米国の台湾支援に対する疲弊感
グレイ氏は、歴史的にすべての大国と同じように、米国の海外安全保障への関与は周期的に「疲弊」を迎えると指摘。30年以上続いた対外的な過剰関与の後、米国民の間では「遠い台湾を守ることが本当に必要なのか」という疑念が強まっていると説明した。
さらにウクライナやイスラエルに比べ、台湾が自衛努力を十分に行っていないとの perception(認識)も広がりつつある。公平かどうかは別として、こうした見方がワシントンの超党派コンセンサスを侵食し、台湾支援の優先順位を下げる要因になりかねないと警告した。
グレイ氏は、台湾に対するこの疑念が主に台湾国内政治、特に国民党の態度に由来していると批判する。国民党は国防予算案の一部を凍結するなど、防衛費の拡充を政治的な駆け引きに利用しているとし、「本来なら一致団結すべき国防を政争の具にしている」と指摘した。
そのため台湾社会全体が国防支出の優先に消極的だと受け止められ、ワシントンの懸念を高めているという。グレイ氏は「国防費は贅沢品ではなく必須の投資である」と強調。国民党の姿勢は敵対勢力に「台湾には自らを守る意思がない」という誤ったメッセージを送りかねず、そのためらいが米国の台湾支援を根本から揺るがす恐れがあると断じた。 (関連記事: 北京観察》中国海軍艦と海警船が南シナ海で衝突 自国同士の接触事故が露呈した軍事的脆弱性 | 関連記事をもっと読む )
両岸の軍事バランスの急変
中国軍の近代化は台湾海峡の軍事バランスを大きく揺るがしている。中国人民解放軍は最新兵器やサイバー戦能力、海軍力の強化に巨額の資金を投じており、台湾の国防支出は増加したとはいえ依然として不十分だ。2023年の台湾の国防予算は約190億ドル(約2兆8,500億円)でGDP比2.5%にとどまる一方、中国は約2,400億ドル(約36兆円)を投じ、両用上陸艦や「反介入/接近阻止(A2/AD)」兵器の開発に重点を置いている。この格差は単なる数字の問題ではなく、「台湾が追いつけていない」という政治的メッセージとして世界に映り、北京に利用されているとグレイ氏は警告する。