ウクライナ戦争の行方とプーチン政権の真実──上月豊久前駐ロシア大使が語る、日本に求められる外交判断とは

2025-06-11 12:53
2015年から8年間にわたり駐ロシア特命全権大使を務めた上月豊久・千葉工業大学特別教授(東海大学平和戦略国際研究所所長・国際学部教授)が登壇した。(写真/フォーリン・プレスセンター、FPCJ提供)
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フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は6月5日、「ウクライナ戦争とロシア情勢〜戦争終結への出口は見つかるのか」と題するオンライン・プレスブリーフィングを開催した。登壇したのは、2015年から8年間にわたり駐ロシア特命全権大使を務めた上月豊久・千葉工業大学特別教授(東海大学平和戦略国際研究所所長・国際学部教授)。現地での豊富な経験を基に、ロシアの実情から戦況の展望、日本外交の今後まで幅広く語った。

会見にはドイツ、韓国、ロシア、台湾、日本などの報道関係者が参加した。上月氏は冒頭、「本日はプーチンという人物像とロシアの変化、戦況と外交の展望、そして日本が取るべき道について話したい」と述べ、講演を開始した。

「表情一つ変えない」KGB出身の支配者・プーチンの素顔

プーチン大統領との初対面は1998年、彼が大統領府第一副長官だった頃に遡る。上月氏は「北方領土について30分間話していたが、プーチンは一度も表情を変えなかった」と述懐。「KGBで訓練を受けた彼は、感情と表情のコントロールに長けている」と分析した。

また、米ブッシュ元大統領との初会談でプーチンが自身の洗礼や十字架の逸話を語ったエピソードを紹介。「心理戦に長けたKGB的アプローチだ」との見解を示した。

オリガルヒ排除と中央集権化

大統領就任後、プーチンはオリガルヒを政界から排除し、地方知事を任命制に変更。「エリツィン時代の分権を反省し、中央集権体制を回復しようとした」と指摘。また「世論には敏感だが、自らのマニューバーで形成できるという確信がある」と述べた。

戦況の膠着と継戦能力の焦点

戦況については、「ロシアが占領しているのはウクライナ全土の約18%。2023年初頭以降、戦線に大きな変化はない」と現状を説明。今後の焦点は継戦能力、すなわち武器と人員の確保に移っているとした。

2023年には国防相を経済学者のベラウソフ氏に交代。「軍需産業を国家経済に組み込む手腕が評価された」と解説。人員面では契約兵制度を導入し、地方の若者に月40万円の報酬で徴兵している現実を明かした。

経済の回復と構造的課題

ロシア経済については、「2000年の平均月収は79ドルだったが、2023年には948ドルに。制裁後も農業が伸び、経済は想定以上に耐えている」と指摘しつつも、「労働力不足や技術遅れ、インフラ投資不足などの課題は依然深刻。2025年第1四半期の成長率は1.4%に落ち込んだ」と警鐘を鳴らした。

プーチンの交渉術と合意の可能性

プーチンの交渉スタイルについて「①議題外で相手の心を掴む」「②複数チャネルで情報操作」「③交渉を急がず主導権を維持」という特徴を挙げた。 (関連記事: ロシア版「真珠湾攻撃」 ウクライナ無人機が戦果、ロシア軍極東基地まで爆撃 関連記事をもっと読む

2022年のイスタンブール合意案(ウクライナの中立化、安全保障保証、クリミアの15年後決定)を基に交渉再開の可能性も言及された。「彼はこの合意案を、戦果として国民に訴える準備をしているのかもしれない」と述べた。