公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は25日、松田邦紀前駐ウクライナ特命全権大使を迎え、「ウクライナ情勢の現状と今後の展望、日本が果たす役割とは」をテーマに記者会見を開催した。松田氏は、3年間のキーウ駐在経験を基に、ウクライナ戦争の本質を改めて解説し、緊張が高まる東アジア、特に台湾に向けた具体的な提言も行った。
「戦争の本質を忘れてはならない」
冒頭、松田氏は、ロシアの侵略開始から4年目を迎えるなか、「国際社会がこの戦争の本質──国連憲章及び国際法に違反したロシアの一方的な武力行使──を忘れつつある」と指摘。停戦交渉にあたっても「侵略国と被侵略国を同列に扱う誤った相対論に陥ってはならない」と警鐘を鳴らした。
また、停戦と和平は「全く異なる段階」であり、まず無条件の全面的停戦を実現させ、その後にじっくりと和平協議を行うべきだと強調。現時点での性急な和平案には慎重な姿勢を求めた。
欧州とアジアの安全保障の連結
さらに松田氏は、ウクライナ戦争を契機に「欧州とアジアの安全保障が直結した」という事実を指摘。北朝鮮がロシアへ兵器供与し、中国人傭兵が戦闘に加わる状況を踏まえ、「岸田首相の言葉を借りれば、『今日のウクライナは明日の東アジア』である」と語った。
その上で、日本がNATOに大使を派遣したこと、NATO事務総長が日本を訪問し連携強化を図ったことなどを、「論理的な必然」と評価。「もはやヨーロッパとアジアは不可分の関係にある」と述べた。
21世紀型「世界大戦」構造と国際秩序再編
松田氏は現在の戦争構造を、「ウクライナ、NATO、EU、日本、韓国」対「ロシア、中国、北朝鮮、イラン」という事実上の二大陣営による対立と位置づけ、「21世紀型の世界大戦構造だ」との認識を示した。
そしてこの戦争の終結後には、単なる戦闘停止ではなく、「新たな国際秩序を設計し直す必要がある」と指摘。特に国連安保理改革の重要性を強調し、「侵略の責任を問う特別法廷設置、人道法違反の裁き、再発防止措置が不可欠だ」と訴えた。
台湾メディアからの質問──領土防衛隊モデルの提言
会見では、台湾メディア《風伝媒》からも質問が寄せられた。
第一問では、「ウクライナ経験を踏まえ、緊張高まる東アジア、特に台湾にとって必要な備えと国際連携は何か」が問われた。
これに対し松田氏は、ウクライナがロシアに抗して持ち堪えている要因として、「国民の団結、事前整備されたレジリエンス体制、特に『領土防衛隊(Territorial Defense Forces)』の存在」を挙げた。市民が自発的に行政や社会サービスの維持を担い、正規軍・警察が本来の任務に専念できる体制が功を奏したと説明した。 (関連記事: 大阪・関西万博:ブルーインパルス、会期中に再派遣へ! 開幕日は悪天候で中止 夏の飛行案も浮上 | 関連記事をもっと読む )
松田氏は「台湾を含む民主的社会にとっても、市民の自発性を制度化し、非常時に迅速かつ組織的に機能する枠組みの整備が不可欠だ」と提言。「単なるボランティア精神に頼るのではなく、平時から制度設計を行うことが必要」と力説した。