学生ビザが「政治の道具」に?米中の対立が教育現場に与える深刻な影響

2025-06-12 13:22
中国人学生がアメリカ大使館前でビザ申請の面接を待つ。 (AP通信)
中国人学生がアメリカ大使館前でビザ申請の面接を待つ。 (AP通信)
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アメリカ国務長官のマルコ・ルビオ氏は5月28日、中国共産党と関係のある中国人留学生に対し、ビザの「積極的な取り消し」を進める方針を発表した。対象は党員や重要分野に在籍する学生などが含まれる。その直後、米国駐中国大使館は14歳未満の子どもに対するビザ面接免除の措置を取りやめ、幼児にも面接が求められる可能性が出たことで、保護者や留学関係者の間で強い反発が広がっている。

緊張が高まる中、6月11日にはドナルド・トランプ米大統領がSNS「Truth Social」で、中国の習近平国家主席と新たな貿易枠組みについて合意に達したと発表。中国がレアアースや磁石の前倒し供給に応じ、米国が全体の関税率を55%に維持する一方で、中国側は10%の関税を設定する内容となっている。トランプ氏はこの合意の一環として「中国人学生が米国で学ぶことは、私にとって常に良いことだった」と強調した。

トランプ氏の最新の発言は、当初は強硬姿勢を示していたビザ政策が、撤回可能な交渉材料となり得ることを示し、その不確実性の高さが浮き彫りとなった。これに対し、各方面から批判の声が上がっている。

2025年6月5日、美国大統領トランプがホワイトハウスで訪問中のドイツ首相マーツと会見。(AP)
アメリカのトランプ大統領は6月11日Truth Socialでの発言により、中国学生のビザ政策が貿易交渉の材料と見られるようになった。(AP通信)

中国共産党員であることは忠誠の証ではなく、昇進のための通行証に過ぎない。

米誌『フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)』は、「ワシントンが理解していない中国共産党員の実態」と題する記事で、中国における共産党員の身分は、教育や職場での昇進に必要な「制度上の通行証」であり、必ずしも政治的忠誠心を意味するものではないと指摘している。にもかかわらず、アメリカ側は冷戦時代の発想でこの身分を安全保障上の脅威と見なし、その背後にある制度的な複雑さを見落としている。その代償を支払うことになるのは、自由を求め、夢を追ってアメリカに渡った中国の若者たちかもしれない。

たとえば、中国の異議人士・楊建利氏は、天安門運動に参加した後、中国共産党から除名された過去を持つ。しかし、かつて党員だったことを理由に、米国での帰化申請は却下された。彼は自ら過去を申告し、証拠を添えて申請したにもかかわらず、アメリカ国土安全保障省(DHS)はこれを認めなかった。この事例は、ワシントンの制度的な不信感と柔軟性の欠如を浮き彫りにしている。

2019年オスロ・フリーダム・フォーラム台湾(13日)、登壇した楊建利。(蔡親傑撮影)
「2019年オスロ・フリーダム・フォーラム台湾」で登壇する楊建利氏。(資料写真、蔡親傑撮影)

アメリカではマッカーシー時代に制定された「内政安全法(Internal Security Act)」に、今なお「全体主義政党の構成員は入国を禁止する」との条項が残っている。このような冷戦の名残は未だ消え去らず、むしろ今日のグローバル化した教育システムの中で再び勢いを増している。その結果、本来であれば交流を促進すべき学生ビザが、地政学的な政治の道具に転用されてしまっている。 (関連記事: トランプ政権、ハーバードの外国人学生受け入れを禁止 関連記事をもっと読む

アメリカンドリームの幻滅、中国学生の心理的ギャップ

国際教育協会(IIE)と国土安全保障省(DHS)のデータによると、2023〜2024学年度にアメリカで学ぶ中国人学生は約27万7,398人にのぼり、中国はインドに次ぐ米国の第二の留学生受入れ国となっている。しかし、このビザをめぐる新たな冷戦の最前線で被害を受けているのは、自由な世界への夢を抱きアメリカに渡った多くの中国人学生たちだ。

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