新型コロナの感染が再び拡大し始める中、ワクチンのブースター接種を受ける人が増えている。特に高齢者や免疫力の落ちている人たちには、2カ月間隔での接種が勧められている。
そんな中、「ワクチンを打つ“腕”」が免疫効果に影響を与える可能性があるという、ちょっと気になる研究結果が注目されている。
2025年に発表された、権威ある医学誌『CELL』の論文によれば、「ブースター接種は、できるだけ最初と同じ腕に打つべき」と強く推奨されている。理由は、体が「どこに打たれたか」を記憶していて、同じ側での接種によって免疫の反応が早く、強く、広くなるからだ。
この研究は、オーストラリア・シドニーにあるニューサウスウェールズ大学のガヴィン医学研究所とカービー研究所が主導したもの。マウス実験に始まり、人間にも応用され、デルタ株やオミクロン株などの変異ウイルスに対しても、初回と同じ腕に打った方が中和抗体の効果が高かったという。
研究チームは「接種位置は免疫の“記憶の呼び起こし”に明確な影響を与える」としている。
接種位置は免疫システムの記憶喚起に確実に影響する
消防隊が現場に出動すると想像してみてほしい。初回はA隊がいつもの場所から出動したのに、次回は全然違うところにあるB隊に切り替えたせいで、到着が一拍遅れてしまうようなもの。体の免疫細胞も同じように「地理的な関係」を持っている。
具体的には、最初の接種のあと、「記憶B細胞」と呼ばれる部隊がリンパ節周辺に留まり、次に敵(ウイルスやワクチン)が現れると、すぐにアップグレードした抗体を生産する準備を始める。
しかし、次の接種で打つ腕を変えてしまうと、免疫システムはまったく新しいエリアを再構築し直さなければならず、結果的に反応が遅れたり、できた抗体が狙いどころから外れていたりすることがわかった。

さらに注目すべきは、「サッカラス洞巨噬細胞」という名前の、あまり知られていない免疫の見張り役。リンパ節の中で敵の情報を記憶B細胞に知らせる「監視兵」のような存在だ。
驚くべきことに、彼らは過去に見た敵の情報を覚えていて、以前一緒に戦った仲間たちの面倒を見続けているという。「同じ腕に打つ」ことで、記憶細胞たちは“慣れた戦場”に戻り、「顔なじみの仲間」と再び連携できる。そんな免疫のしくみが、今回の研究で裏付けられた。
医界たちの見解は分かれる
しかし、医学誌『CELL』がこんなにも「親しみやすい」テーマを掲載したことで、台湾国内では賛否が分かれた。 (関連記事: AI医療》93.4%の精度で脊椎骨折を秒診断 AI×医療の「最前線」が高齢社会を救う | 関連記事をもっと読む )
台湾大学児童病院の元院長であり、小児感染症の専門医でもある黄立民氏は、「たしかにこの論文は国際的に権威ある雑誌に掲載されたが、動物実験から人体試験まで行われたとはいえ、ブースターショットと初回接種、さらに接種する側(腕)による定量的な比較はされていない」と指摘する。
黄氏は、「仮説やメカニズムの説明には納得できる部分もあるが、それだけで公衆衛生上の推奨とするにはデータが足りない」としており、「たとえ同じ腕で接種することで免疫の反応が早まる可能性があるとしても、それが政策的に意味を持つかどうかは別問題だ」と話している。