【新新聞】介護殺人に重刑判決が続く台湾 医師が語る「問題の根本」

2025-12-08 16:19
2070年には国内の介護人材が現在より約900万人減少し、65歳以上の高齢者は400万人台から700万人超へ増えると見込まれている。(イメージ写真/顏麟宇撮影)
2070年には国内の介護人材が現在より約900万人減少し、65歳以上の高齢者は400万人台から700万人超へ増えると見込まれている。(イメージ写真/顏麟宇撮影)

台湾・台北市で先日、再び「介護殺人」とされる事件が起きた。八十代の母親は、重度障害で長年寝たきりの息子を50年にわたり自宅で介護してきたが、2023年に自身が感染症を患い、もし自分が先に亡くなれば介護を担う人がいないと考え、息子を殺害したとされる。

台湾の殺人罪は最低刑が懲役10年で、裁判所は自首や情状酌量を最大限に考慮したものの、判決は懲役2年6カ月にとどまらなかった。執行猶予には2年以下が必要であり、裁判官は判決文に「国家元首による恩赦(台湾の制度)の検討を望む」と特記した。しかし、恩赦が適用されるかは不透明で、議論は個別事件か、あるいは長年の介護負担に苦しむ家族全体の問題なのかという論点にも広がっている。

精神科医の沈政男氏によれば、司法統計では過去25件の介護殺人の平均刑期は4年10カ月、最長は19年に達した。今年5月の台南市・帰仁地区の事件では懲役20年の判決もあった。

沈氏は「今日に至っても、すべての裁判官が介護殺人の特殊性を十分に理解しているわけではない」と指摘する。数十年にわたり親の介護を続け、仕事や家庭を犠牲にし、介護者本人も被介護者も深刻な苦痛に直面する中で事件に至るケースもある。しかし台湾法では、被害者が直系尊属である場合、刑が「2分の1加重」される。情状酌量で「2分の1減刑」されても、結局は元の水準に戻り、執行猶予を得ることは難しいままだ。

日本は加重規定を違憲と判断

沈氏は比較対象として日本の司法制度を挙げる。日本では介護殺人への理解が進み、執行猶予の対象を「懲役3年以下」へ拡大したほか、1995年には直系尊属殺害の加重規定が違憲とされ、最終的に廃止された。

そうでなければ、介護の対象が直系尊属であるだけで刑が1.5倍となり、情状酌量で半分に減らしても結局は元と変わらず、猶予を得られないという状況が続いていたはずだ。

直系尊属を殺害した場合の量刑を一般の殺人と同じにすべきかどうかは、司法関係者や市民の間でも意見が分かれる。沈氏は「直系尊属殺害は『加重できる』とする裁量規定に改めれば、裁判官は事情をより柔軟に判断し、必ずしも加重しなくてよいケースも認められる」と提案する。

20250111-醫師沈政男11日出席「111拒絕綠色威權,還我司法正義」集會活動。(顏麟宇攝)
精神科医の沈政男氏は、現在も全ての裁判官が「介護殺人」の特殊性を十分に理解しているわけではないと話す。(写真/顏麟宇撮影)

沈氏は今回の事件について、判決文の一文に注目する。裁判官は「刑を執行しなければ、他の介護者が同様の行為に及ぶ恐れがある」と記していた。

沈氏は「これは一部の裁判官が、介護殺人をなお『故意で許しがたい行為』とみなしている可能性を示す」と述べ、介護負担により追い詰められた行為であっても、司法側が抑止を重視し厳罰に傾く状況が続いていると指摘した。

日韓では介護者の精神状態を鑑定する運用が定着

桃園療養院の李俊宏副院長は、臨床経験として「脳性まひの家族を介護する人は、抑うつ状態を抱える割合が決して低くない」と指摘する。本件でも、母親が当時新型コロナ感染症を患っていた点を踏まえ、認知機能や感情面への影響を評価する必要があると話す。責任能力の判断に直結しなくとも、量刑に影響し得る重要な要素だという。

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