NVIDIA(エヌビディア)の最高経営責任者ジェンスン・フアンCEOは12月3日、ファーウェイ( 華為 )が「極めて強い技術力を持つ企業」であると述べたうえで、米国がNVIDIA製チップの対中輸出を制限することは「世界第2位のAI市場である中国を事実上手放すことになり、ファーウェイに成長余地を与える」と指摘した。将来的には、中国が「AI版・一帯一路」を推進し、米国企業と競合する構図が鮮明になる可能性があるという。
一方、テック系リサーチ機関トップのウ・リングチャン氏は『風傳媒』の取材に対し、最近では「ファーウェイが旧式の深紫外線(DUV)露光装置を使って2ナノ級プロセスに挑んでいる」との情報が出ていると分析。中国が西側との技術ギャップを縮めている点は大きなニュースだが、「突破の方法そのものが、フアン氏の真意ではない可能性もある」と述べた。
フアン氏は現在、米政府に対し対中輸出規制の緩和を求めている。12月3日にワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)イベントに登壇した際、輸出制限によって「ファーウェイをはじめ中国企業に発展の余地を残すことになり、将来は国際市場で米企業と競合する可能性がある」と主張した。
また、ファーウェイが「世界的に見ても実力のある技術企業の一つであることを認めるべきだ」と発言。米国が中国市場を放棄することで現地企業に空白地帯が生まれ、中国は先端技術を他国へ輸出する機会を得るため、「AI版の一帯一路」が形成される恐れがあると語った。「彼らは市場に早く参入するほど、生態系の構築が加速し、その中心に位置づけられることをよく理解している」とも述べた。
ジェンスン・フアン氏は、米国の対中規制によって「世界第2位のAI市場である中国を明け渡し、ファーウェイに成長余地を与える」と警鐘を鳴らし、「AI一帯一路」が現実味を帯びると警告している。(写真/劉偉宏撮影)
ファーウェイのチップ製造プロセスは2ナノに迫るのか? 米国がASML製の先進EUV(極紫外線)露光装置を中国本土へ輸出することを禁じた結果、中国の半導体製造は旧式のDUV(深紫外線)露光装置に依存せざるを得ない状況にある。これにより、中国の製造プロセスはおおむね7ナノ相当の水準にとどまっている。一方、TSMCなど主要ファウンドリはすでに2ナノ量産の段階に入ろうとしており、その差は小さくない。
しかし、日経中文網やサウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)など複数の海外メディアによれば、最近公開されたファーウェイの特許から、同社が旧式DUV技術の高度化によって、2ナノ級と競える製造プロセスの実現を目指していることが分かるという。
ウ・リングチャン氏は、中国がNVIDIAと同レベルのチップを作るには高性能な露光装置が不可欠だとしつつ、今回伝えられた最新情報では「旧型DUVを使って新型EUVに近い効果を得る技術を確立しつつある」と説明。現状で2ナノ相当には達していないものの「5ナノから3ナノのレンジに到達する可能性があり、非常に重要な進展だ」と述べた。 つまり中国は、手元にあるDUVだけを使いながら、EUVで作るチップにどれだけ近づけるかを模索している段階だという。
またウ氏は、ASMLが以前「7ナノ世代からはEUVに移行すべき」と提言していた点に触れつつ、TSMCでさえ「5ナノ世代に入るまではEUVを本格導入しておらず、7ナノ段階ではDUVの性能を極限まで引き出していた」と指摘した。
科技力智庫のウ・リングチャン執行長は、中国製露光装置に関する最近の報道について「性能は5ナノ〜3ナノ水準に達する可能性がある」と指摘する。(写真/顏麟宇撮影)
中国、自前の露光装置の開発を加速 ウ・リングチャン氏によれば、中国では複数のチーム、民間企業、国有企業、大学の研究室などが協力し、DUV(深紫外線)露光技術の突破を目指している。すでに一定の進捗があるとみられ、ウ氏の知る限りでは、上海の「宇量昇」という企業が国産DUV装置を開発済みだという。さらに、海外関係者からは「宇量昇は3台のDUVを完成させ、別々の工場で試験調整している」との情報も伝わっており、真偽は確認困難ながら「技術進展の度合いを考えると十分あり得る話だ」と指摘した。
ウ氏は、中国が先端EUV露光機を入手できない状況で「別の技術ルートを模索し、総合的なチップ性能を5ナノ、3ナノといった高位プロセスに近づけることが大陸側の戦略になっている」と説明する。
一方で、「中国でも『EUVを開発済み』といった噂が頻繁に流れているが、技術難易度を考えれば現時点では不可能だ」とも言う。ウ氏によれば、深圳の「新凱来」がEUV開発に取り組んでいるとされるものの、「まだ試作機すら確認されていない」。本格的なEUVの国産化には「あと3〜5年は必要だろう」と見立てている。
中国本土にはオランダのASML製DUV露光装置がなお千台規模で残存しており、現在は国産チップ生産の主力となっている。(画像/ASML公式サイトより)
ジェンスン・フアン氏が本当に懸念していること ウ氏は、米国がNVIDIAの先端チップの対中輸出を規制し、中国側もNVIDIA製品に制限を設ける中で「中国当局は国産チップの利用を積極的に後押ししている」と指摘する。だが、フアン氏が示した「中国市場をファーウェイ に明け渡すと、やがて彼らが海外へも進出する」という議論には、実際には別の意図があるとみる。 「フアン氏の狙いは、シンプルに言えば『中国市場でまだチップを売りたい』ということだ」とウ氏は言う。
フアン氏は、中国市場がファーウェイ 主導で拡大し、国内の設計企業・ファウンドリ全体が成長した場合、それが海外輸出につながるとの論理を展開した。しかしウ氏は、その構図には大きな飛躍があると疑問を呈す。「中国のチップは国内でも競争力が限定的で、政府補助によって支えられている面が強い。補助金なしで海外市場が本当に受け入れるのか、といえば疑問が残る」と述べた。
ウ氏は具体例として、NVIDIAの最上位GPU「Blackwell」は、ファーウェイのAIチップ「Ascend 910」と比べ「性能差は100倍にも及ぶ」と強調する。中国以外の市場では依然としてNVIDIAの優位性が圧倒的であり、「NVIDIAがファーウェイ に市場を奪われる理由は本質的には存在しない」と指摘する。むしろ、NVIDIAがカバーしにくい低価格帯・ローエンド市場については「NVIDIA自身が参入しないのであれば、ファーウェイ が担っても問題ないだろう」と語る。
ジェンスン・フアン氏は中国サプライチェーン博覧会にも出席し、中国市場を重視する姿勢を示してきた。(写真/AP通信)
フアン氏の「最後の大口販売」戦略 ウ氏は、フアン氏の本音を次のように語る。 「NVIDIA製品は今なお中国市場で強い競争力がある。ファーウェイやその他の中国企業、さらには中芯国際(SMIC)による製造能力を合わせても、総合的な製品性能ではNVIDIAに及ばない。そのため、中国のクラウド企業やデータセンター運営企業は、依然としてNVIDIA製品を望んでいる。」
さらにウ氏は、フアン氏が強調した「今、中国市場で販売できるうちに売り切りたい」という切迫感をこう説明する。「フアン氏の言う『最後の一波(最後の大口販売の波)』とは、中国がいずれNVIDIAに近い性能のチップを手に入れた時点で、NVIDIA製品が中国で売れにくくなる、という意味だ。今ならまだ需要が見込めるため、規制で自ら販路を狭めたくない。その思いが、米国政府に対する規制緩和要請の背景にある。」