中国系SNS「小紅書(RED)」が今週、民進党政権、特に 内政部および関連機関によって「詐欺の温床」との名目で台湾からのアクセスを1年間制限された。台湾には約300万人の利用者がおり、予告なしの封鎖に利用者は呆然。中国や海外のネットユーザーからは、「両岸はVPN利用という一点で先に統一したらしい」と皮肉る声も飛び交った。
台湾政府が中国の影響力拡大に対抗できないまま、「外では何もできず、内向きに強く出るだけ」と揶揄される構図が再び露呈した格好だ。
小紅書(RED)の中心は「食・旅・美容」 政治色とは無縁の世界 実際に小紅書(RED)を使ったことのある人なら知っている通り、このアプリは中国発でありながら、政治的コンテンツはほとんど目にしない。台湾ユーザーを含む大多数は、グルメ、コスメ、ファッション、旅行といった生活情報を収集するために利用している。 「現代版のビューティー雑誌」と形容されることすらあるが、大げさではない。
小紅書(RED) の成長過程を知る人ならなおさら、利用者像がはっきりと理解できるはずだ。台湾でも中国本土でも、主要ユーザーは若い女性で、政治に強い関心を持たない層が中心だ。彼女たちは統独論争にも冷淡で、普段から関心を寄せるのは生活そのもの。加えて、中国のSNSには一定の検閲があるため、台湾問題に関する大規模な論争が小紅書 (RED) 上で展開されることもほぼない。
筆者と周囲の例を挙げれば、友人が起業時に小紅書で顧客探しをしたり、出産後の育児情報を集めたり、留学先や旅行先で「どこで食べるべきか」を調べたりと、用途は徹底して日常的だ。西洋圏の都市に住む台湾人や中国人の友人も、小紅書(RED) で「地元の人気店」を検索するのは珍しくない。
国際ニュースを追っている読者なら耳にしたかもしれないが、最近、米国の若者の間で小紅書(RED) の利用が急増している。トランプ米大統領がTikTok禁止の可能性を示したことから、別のSNSを求めて小紅書(RED) へ移った「TikTok難民」と呼ばれる層だ。中国語ができない数万人規模の米国ユーザーが、小紅書を通じて中国文化や日常を知るようになったという点は、国際的な新しい交流のかたちとも言える。
筆者も実際に米中間のやり取りを検索してみたが、投稿もコメントも驚くほど友好的だ。中国の利用者はアメリカの日常生活に強い関心を示し、逆にアメリカの若者も、中国を含むアジア圏を新鮮な文化として楽しんでいる。
映画『地母』で2025年の金馬奨主演女優賞を受賞した范冰冰氏が、受賞後に上海ガニを頬張る様子を微博に投稿した。 (画像/微博より)
現代世界への理解が欠落したままの台湾当局 小紅書(RED)の歴史を振り返ると、古くからネットを使ってきた読者なら覚えているだろう。同アプリが本格的に普及し始めた初期、火付け役となったのは中国本土の人気女優・范冰冰(ファン・ビンビン)ら芸能人だった。彼女たちが日常や美容、ライフスタイルを投稿し始めたことで、若い世代の注目を一気に集めたのである。
その後、米国でTikTok規制の可能性が取り沙汰されると、海外では「避難先」として小紅書(RED)に移るユーザーも増えた。多くの外国人にとって、同アプリは若者同士が互いの文化を垣間見るための窓口になり、主流メディアでは得られない生活情報やリアルな日常が共有される場として広がっていった。
しかし、筆者が見る限り、台湾の民進党政権、特に内政部の官僚たちは、こうした現代のデジタル文化を全く理解していない。彼らの世界観は、まるで1980年代で時が止まったかのようだ。「反共」「反ソ」を掲げ、両岸政策は「接触しない・交渉しない・妥協しない」という旧式の「三不政策」が最適だと信じ込んでいるように見える。
交流は断つべきで、情報の往来を最小限にすべきだ。内政部の姿勢からは、そんな発想ばかりが透けて見える(もっともECFAの廃止には手を付けないが)。それ以上に驚かされるのは、彼らが現代の若者のコミュニケーション様式にほとんど無知だという点である。
実際、多くの西側政治家は小紅書(RED)を積極的に活用している。たとえば、オーストラリア・メルボルン市長のニコラス・リース氏は、同アプリで観光情報を発信し、地元をPRしている。中国出身の若者がこの投稿をきっかけに民主政治への理解を深めるケースもあり、小紅書(RED)は「中国から外へ向かう一方通行の宣伝媒体」では決してない。むしろ、対外的にも対内的にも作用する双方向のプラットフォームなのだ。
民進党政権の「狙い」は隠しようもない。封鎖に反対するネット言論人の一人、黄士修氏(「核能流言終結者」創設者)は、内政部の説明は筋が通らないと指摘する。理由はシンプルだ。詐欺被害額を比較すれば、小紅書(RED)経由の被害は過去2年で数億元規模だが、Facebookは1日で小紅書(RED)の年間被害額を上回る とされている。
さらに黄士修氏は、Facebookは台湾法人が存在しても詐欺対策に消極的で、一般ユーザーのアカウントを誤って凍結する事態が頻発していると批判する。一方、X(旧Twitter)は台湾法人がなく広告代理のみ、Telegramに至っては広告代理すらない。それにもかかわらず、小紅書(RED)だけが「台湾に法人がない」「連絡が取れない」という理由で封鎖対象になるのは、明らかに不均衡だと訴える。「本気なら、抖音(TikTok)も微信(WeChat)も止めてみせろ。中途半端に小紅書だけ狙うのは『腰砕け』だ」と皮肉る声も上がっている。
2025年12月5日、小紅書(RED)の「1年間の接続遮断」をめぐり、取材に応じる劉世芳内政部長。 (写真/顏麟宇撮影)
内政部は国民を振り回す省庁になっているのか 台湾の内政部は、その始まりを中華民国成立直後の「内務部」にさかのぼる。役割は民政・警察・消防など国民生活に関わる幅広い分野に及び、「天下第一大部」と称されるほど重要な部署だ。
だが、劉世芳氏が内政部長に就任して以降、その行政運営はしばしば批判の的となってきた。民進党の地盤・高雄市でさえ党内予備選に勝てなかった人物が、全国規模の民政権限を持った途端、民生改善よりも国民を「疲弊させる施策」ばかりを重ねているという指摘がある。
象徴的なのが、数万人規模の中国籍配偶者への対応だ。法治原則に反し、国民に負担を強いる措置を繰り返し、社会的混乱を招いた。
さらに劉世芳氏率いる内政部は、所掌外であるはずの対中政策に過剰介入し、権限を拡大していると批判されている。その一方で、台風ダナスによる花蓮豪雨災害の際には、中央災害応変センターの責任者としての役割を果たさず、現地視察も災害発生から1週間以上遅れて行うなど、基本的な職務遂行に問題を残した。
本来であれば『災害防救法』などに照らし、責任が問われるはずだったが、野党の追及が十分に及ばなかったこと、元部長の李鴻源氏らの影響、さらに民進党側の「責任転嫁」戦術もあり、内政部は追及を免れた。その結果、今回の小紅書(RED)封鎖のように、本来の権限範囲を超えた判断が繰り返される土壌ができてしまったと見る向きもある。
2025年11月11日、賴清德総統(中央)と劉世芳内政部長(右)が中央災害応変センターを視察した。 (写真/顏麟宇撮影)
票を失っても構わないというのなら、どうぞ続ければいい 筆者が不思議に思うのは、もし民進党政権、あるいは賴清德総統自身が、劉世芳氏による一連の判断を「全く問題がない」と評価しているのだとしたら、その扱いはむしろ「過小評価」ではないかという点である。そう考えるのであれば、劉氏は行政院長の後継候補として遇されるべき人物であり、いっそ次期総統選の候補として推すべきだろう。そうすれば「なぜ内政部が両岸政策に介入するのか」という批判も、筋が通らないまま自然に解消されるはずだ。
しかし、もし賴総統がそこまでの評価をしていないのであれば、むしろ速やかに劉世芳氏を更迭すべきだ。民進党政府・卓榮泰内閣にとって、そして国民にとってすら「混乱の火種」となっているのは否めない。高雄市民ですら彼女を市長候補として選ばず、陳其邁氏を支持し、立法委員の後継も李柏毅氏を選んだ政党が、全国の民政を担う内政部長を任せるのは不自然ではないか。
まして小紅書(RED)の300万ユーザーの多くは、特定の政治志向を持たない若者や、むしろ与党寄りの層も含まれている。彼らの半数でも反発すれば、民進党は次の選挙で数十万、場合によっては百万人規模の票を失いかねない。このリスクを軽視すべきではない。
賴総統自身、2020年の党内予備選で蔡英文前総統に敗れた経験がある。蔡氏が賴氏を上回る得票で二度の大統領選を制し、完全政権を維持した理由の一つは、若い世代の圧倒的支持である。若年層の票を失うことは、未来の政治基盤を失うことに等しい。
さらに、小紅書(RED)封鎖の強硬姿勢は、長期的に野党の格好の攻撃材料となり続けるだろう。だからこそ筆者は、賴総統が劉氏を行政院長や「次期総統候補」として重用する意思がないのなら、早めに地元・高雄へ戻してあげるべきだと考える。中央政治では、これ以上混乱を広げないほうがよい。
2018年11月、民進党の高雄市長候補だった陳其邁氏(左)と、選対本部長を務めた劉世芳氏(右)が市内で街頭遊説を行った。 (写真/陳其邁事務所提供)
トランプが示した「取引の政治」 台湾が学ぶべき柔軟性 小紅書(RED)の議論に戻るなら、民進党政権が最も学ぶべきは、意外にもトランプ氏の対中デジタル政策かもしれない。特に「台湾と米国は価値を共有する」と主張する与党なら、なおさら参考にすべきだ。仮にトランプ氏のような取引的発想があれば、小紅書(RED)どころか、中国系SNSが100社あったとしても、政策的に処理する道をいくらでも作り出せたはずである。
広く知られている通り、2020年にトランプ氏が大統領に就任した後、TikTokは安全保障上の懸念から度々規制の対象となった。米議会でも禁止法案が繰り返し提出され、ByteDance(バイトダンス)に米国事業の売却を迫る局面もあった。
ところが、2024年の大統領選が近づくなかで状況は変化する。トランプ氏はインターネット空間、とりわけ若年層の支持を確保したいと考え、ByteDance 側もアメリカ政府との協議を重ねた。その結果、トランプ氏はバイデン政権時代や自身の1期目とは方針を切り替え、TikTok禁止措置の「一時停止」を決定。そのうえで、中国政府との協議を通じてTikTokの「処理案」と呼ばれる新たな枠組みをまとめ上げた。
この商業取引スキームについては、中国の習近平国家主席も、米中双方に利益をもたらす案だとして支持を表明し、トランプ氏はこのテーマで大きな成果を手にしたと評価されている。海外メディアの報道によれば、2025年9月20日、ホワイトハウス報道官は、TikTok米国法人の取締役7人のうち6人を米国人とし、データとプライバシーの管理はオラクル(Oracle)が担い、アルゴリズムは「知的財産権の使用許諾」という形で新会社が米国内で利用し、その対価としてライセンス料を支払う枠組みになると発表した。
その後の9月25日には、トランプ大統領が大統領令に署名し、新たなTikTok米国運営スキームが米国法の要件を満たしていると正式に示した。新たなスキームの事業主体は、ByteDance が全額出資するTikTok米国法人(BD TikTok US)が保有し、TikTok USDSジョイントベンチャーが、米国内のデータセキュリティ、コンテンツの安全性、ソフトウェア防護、その他のローカル業務を担う体制となった。これは「米中首脳会談」に先立つ象徴的な成果としても位置づけられている。
要するに、中国側との交渉と取引を通じて、トランプ氏はTikTokの米国における実質的な管理権を取り戻した形となった。若年層の支持を失うことなく、国家安全保障と「メンツ」を両立させ、中国側にとっても「完全撤去」ではなく米国市場での運営継続という結果を残したのである。この経緯は、米中という二大国のあいだであっても、なお一定の交渉余地と取引空間が存在しうることを示していると言える。
ドナルド・トランプ氏は就任後、「TikTok売却交渉の期限延長」に関する大統領令に直ちに署名した。 (写真/AP通信)
中国に勝てない苛立ちを「身内」に向けていないか 残念ながら、トランプ氏がTikTokをめぐって示した理解と対応ぶりと比べると、民進党政府、特に内政部と劉世芳氏が中国人配偶者や小紅書(RED)に対して行っている措置は、中国の台頭に真正面から対抗する力がないまま、その鬱憤を内部に向けてしまっているように映る。外で打ちのめされた者が、家に戻ると妻や子どもに当たり散らす、そんな不幸な例を想起させる構図である。もし本当に「高い視座」で国家の将来を見据えるつもりがあるのなら、そこにはトランプ氏のケースという明確な教材があるのだから、毎日真剣に 学び続けてもよいはずだ。
ただし、問題は取引の技法にとどまらない。より根本的なのは、与党や支持層の一部が「新しい時代を動かす前提そのもの」を受け入れようとしていない点にある。今日、世界で起きている最も大きな構造変化は、中国とインドの台頭だという指摘は筆者の独断ではない。アメリカの作家トーマス・フリードマン氏は20年以上前の著書『フラット化する世界』で既にこの流れを描いていた。そう考えると、現在の与党の発想は米国の知識層から少なくとも20年は遅れていると言わざるを得ない。
もちろん民進党が「中国の勃興に最後まで抵抗する」という選択肢を取ることも可能だし、それ自体に筆者は特段の異論を挟むつもりはない。しかし、世界はそれぞれが風向きを読みながら動いている。いまや世界一の大国アメリカでさえ、中国と対等の立場で交渉に臨まざるを得ず、単独で世界秩序を決めることはできない。かつて欧州から「悪の枢軸」と見なされたロシアでさえ、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる停戦交渉では優位に立っているのが現実だ。民進党が古い思い込みを手放すのか、それとも未来へ踏み出すのか。結局は指導者の判断力にかかっている。
では、台湾の一般ネットユーザーはどう向き合うべきか。筆者の提案は単純で、海外で働いたり旅行したりする際と同じように、VPNを積極的に使えばよいということだ。台湾の若い世代こそ、新しい時代へ向かって自ら歩み出すべきであり、変化に追いつけない一部の人物や、古い価値観に縛られた政治家に未来を引きずらせる必要はない。
情報へのアクセスが自由で、選択肢が広く、十分な知識に基づいて判断できる世界へ。その方向に歩むことこそ、これからの台湾が選ぶべき道ではないか。