「方向性は正しいが弱点もある」台湾1.25兆国防予算を日本の元陸将が分析 日本の反撃能力と重なる「同じ歴史的分岐点」

2025年11月26日、台湾が推進する総額1.25兆台湾ドルの国防特別予算が立法院で停滞する中、顧立雄国防部長氏が「民主台湾を守る国家安全保障行動計画」高官会議後の記者会見に臨んだ。(写真/顏麟宇撮影)
2025年11月26日、台湾が推進する総額1.25兆台湾ドルの国防特別予算が立法院で停滞する中、顧立雄国防部長氏が「民主台湾を守る国家安全保障行動計画」高官会議後の記者会見に臨んだ。(写真/顏麟宇撮影)

台湾は、過去最大規模となる 1.25兆台湾ドル(約6兆1250億円) の国防特別予算(2026〜2033年)を推進している。8年にわたる長期投資で、台湾防衛戦略の大きな転換点と位置づけられるこの改革を、日本はどう見ているのか。さらに、同じインド太平洋の安全保障枠組みの中で、台湾と日本の防衛再構築はどのように重なっているのか。

日本陸上自衛隊の退役陸将で、現在は日本安全保障戦略研究所(SSRI)上席研究員を務める小川清史氏は、『風傳媒』の独占インタビューに対し、台湾の新予算の方向性を評価しつつも、「課題も同時に拡大している」と率直に語った。小川氏の視点は台湾にとどまらず、中国の急速な軍拡、北朝鮮のミサイル発射の常態化、ロシアの太平洋正面再評価という、日台が共有する構造的圧力へと及ぶ。

日本では反撃能力の整備がようやく制度として形を取り始め、台湾では軍事改革が一気に加速している。小川氏は、両国はいま「同じ歴史的分岐点」に立っていると指摘する。限られた時間の中で、多領域の脅威に耐え、長期的に機能する防衛体制を築けるかが問われているという。

台湾1.25兆国防予算 方向性は正しいが、3つの弱点が残る

行政院が公表した「防衛レジリエンス強化・非対称戦力特別予算」によると、1.25兆台湾ドルは主に七つの分野に配分される。防空、弾道ミサイル迎撃、精密火砲、長距離精密打撃ミサイル、無人システムと対抗手段、AI支援とC5ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・サイバー・情報・監視・偵察)、そして作戦持続力を高める装備だ。

これらについて小川氏は、「台湾の改革は、明らかに現代戦の要求に近づいている」と評価する。情報・監視・偵察、無人化、AIを活用した指揮統制、長距離精密打撃はいずれも、台湾がこれまで弱点を抱えてきたが、極めて重要な能力だという。

国防部が発表した「防衛の強靭性と非対称戦力特別予算」のブリーフィング。(国防部公開資料より)
台湾国防部が公表した「防衛レジリエンス強化と非対称戦力の特別予算」説明資料。(画像/台湾国防部公開資料)
国防部が発表した「防衛の強靭性と非対称戦力特別予算」のブリーフィング、七大目標を列挙。(国防部公開資料より)
台湾国防部が公表した「防衛レジリエンス強化と非対称戦力の特別予算」説明資料。7つの重点分野を提示している。(画像/台湾国防部公開資料)

一方で、小川氏は見過ごせない三つの懸念点を挙げる。

1. 長距離監視と宇宙情報の不足

台湾は、航空・宇宙レベルの情報収集で外部支援への依存度が高く、自主能力が限定的だ。危機初期に情報の非対称が生じやすい構造は、作戦全体に影響を及ぼしかねない。

2. 無人システムの「量」が不十分

方向性は正しいものの、量産と展開のスピードが不十分だと小川氏は指摘する。抑止力として機能するには、解放軍に「密度」を意識させる規模が必要になる。

3. 民間防衛の脆弱さ

小川氏が最も懸念するのが民防だ。「日本は台湾を地域危機の焦点と見ている。だからこそ、衝撃を受けた後も社会が機能し続けるかを重視している」と語る。抑止力は兵器だけでなく、社会が耐え、動き続けられるかどうかにもかかっているという。 (関連記事: 中国のミサイル戦力が「量」で圧倒 陸自「三つ星」退役の小川清史氏「日本は『打たれるだけ』では生き残れない」日本と台湾は同じ戦場に 関連記事をもっと読む

小川氏は、台湾の改革路線が日本、米国、オーストラリアなどインド太平洋の民主国家の作戦様式に急速に近づいている点を評価する。特に無人化やAI指揮統制の分野では、今後の日台協力の余地は一段と明確になると見る。

12月9日、日本安全保障戦略研究所(SSRI)上席研究員の小川清史が《風傳媒》の独占インタビューに応じた。(王秋燕撮影)
12月9日、日本安全保障戦略研究所(SSRI)上席研究員の小川清史氏が『風傳媒』の独占ビデオ取材に応じた。(写真/王秋燕撮影)
20250508-i401_01-日本退役三星陸將小川清史小檔案
小川清史氏(日本・陸上自衛隊の元将官)プロフィール。
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