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「正しいことを言うだけでは通じない」東大・阿古智子教授が警告する日本の対中外交の限界「独自のナラティブを持つべき」 東大の阿古智子教授は11日の会見で、高市首相の発言を機に悪化する日中関係に対し、日本政府の戦略欠如を批判した上で、中国のプロパガンダに対抗しうる独自の「ナラティブ」を国際社会へ発信すべきだと提言した 。(写真/FPCJ提供)
公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は11日、「日中関係 -緊張緩和に向けた日本の対応-」をテーマに、東京大学大学院総合文化研究科の阿古智子教授を招いたオンライン記者会見を開催した 。
東大の阿古智子教授は11日の会見で、高市首相の発言を機に悪化する日中関係に対し、日本政府の戦略欠如を批判した上で、中国のプロパガンダに対抗しうる独自の「ナラティブ」を国際社会へ発信すべきだと提言した 。(写真/FPCJ提供) 中国研究を専門とする阿古教授は、高市早苗首相の「存立危機事態」に関する答弁や台湾発言を発端に急速に悪化している日中関係について、「日本には戦略的な対中政策がない。正しいと思うことだけを言うのでは中国と向き合えない」と述べ、高市政権の対応を批判した上で、国際社会に向けた情報発信の強化を求めた。
阿古教授は冒頭、現在の緊張状態の背景として、高市首相の答弁を機に顕在化した「言論空間の問題」を指摘した 。日本国内では首相答弁の妥当性や定義を巡り、右派・左派が「親中」「反中」といった単純な構図で攻撃し合う分断が生じている 。その一方で、中国側は厳しい言論統制(グレート・ファイアウォール)の中にあり、日本の国内議論は中国政府や一般市民にほとんど届いていない現状がある 。
阿古教授は「日本の中だけで騒がしくしており、コミュニケーションが全く成り立っていない」と述べ、日本国内の議論が中国政府の意図に動かされている側面があると警鐘を鳴らした。
中国政府が意図を持って特定のナラティブ(物語)を発信しているのに対し、日本は国益を損なわないため、独自のナラティブを戦略的に生み出す必要があると阿古教授は主張した 。具体例として、中国軍機による航空自衛隊機へのレーダー照射問題を挙げた 。中国側が英語を使い、録音テープなどの証拠を提示して「中国は適切に通告した」と分かりやすく発信しているのに対し、阿古教授は「日本側の説明は専門家以外には分かりにくく、国際社会への説明能力が不十分だ」と指摘した 。
中国の情報管理については「(国内の)言論統制を強化しながら、(外国に対して)プロパガンダを打ち出すことが上手になってきている」と分析し、ただ「正論」を述べるだけでなく、相手のナラティブを分析した上で覆していく姿勢が不可欠だと強調した。
特に、中国が沖縄の帰属権に言及し始めている現状に対し、日本は戦後80年間、平和と民主主義を実践してきた実績と法の支配の論理で対抗すべきとした。法の支配を徹底することは、ウイグルやチベットなどの人権問題とも整合性のある主張につながると述べた 。さらに、特に対米関係において「米国ですら日本の立場をサポートしているようには見えない」との認識を示した阿古教授は、トランプ政権下での外交において、日本は単に同盟国として追従するのではなく、独立した国家として防衛や日中関係をどう構築するかを主張すべきだとした 。
講演では、中国国内の深刻な社会情勢についても詳述された 。監視や検閲が隅々まで及び、経済悪化とともに社会の不安定化が急速に進んでいる中、ゼロコロナ政策下での強権的な隔離に対し、若者が「私たちは最後の世代だ(子どもは作らない)」と抵抗した事例が紹介された 。将来への希望を持てず、生産性の低下や人間関係の破壊が深刻なレベルに達している現状があり、政治的抑圧と恐怖の中で生きている人々がいる 。
こうした中国国内や香港、台湾での圧力を背景に、日本へ移住する知識人、ジャーナリスト、活動家が増加しており、彼らが日本で書店やイベントスペースを開き、自由な議論を行う「言論空間・公共空間」が発展している 。
講演の終盤、阿古教授は中国深圳での日本人男児刺殺事件に際し、中国の若者たちがSNS上で展開した「デジタル灯籠」キャンペーンを紹介した 。中国国内では検閲により削除される中、憎しみではなく哀悼と連帯を示す活動が、日本を拠点とする中国人コミュニティなどから発信されているという 。
質疑応答で改めて日本政府の戦略的な対中政策の欠如を指摘し、「正しいことを言えば伝わる」という姿勢ではなく、中国のナラティブを分析した上で日本独自の主張を打ち出すべきだと訴えた阿古教授は、政治的抑鬱や恐怖の中にいながらも「人間らしさを取り戻したい」と願う人々の声を聞く努力こそが、緊張緩和の糸口になると結んだ。
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