実戦経験ゼロの軍隊は強いのか?元米司令官が語る台湾と中国軍の「真の実力」

2025-06-16 17:22
元米軍太平洋司令官のブレア氏は、台湾軍と解放軍の両方が実戦経験に欠けるが、台湾軍にはさらに大きな劣勢があると指摘した。(写真/張曜麟撮影)
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台北政経学院、平和と安全センター、中華戦略および兵棋研究協会が主催した「台海防衛兵推(台湾海峡防衛机上演習)」に、米国、日本、台湾の総長や将官が招かれ、台湾の軍事関係者の間で大きな注目を集めた。なかでも、長年台湾軍との交流を持つ元アメリカ太平洋軍司令官のデニス・ブレア氏は、「南シナ海衝突事件」で中国と対峙した経験を持ち、近年の中国の積極的な軍事拡張について、深い知見を語った。台湾軍と中国軍の軍事力の質は、どちらに分があるのだろうか。

メディアとの対話において、ブレア氏は「中国の過去30年における軍事力の成長は過小評価すべきでも過大評価すべきでもない」とした。中国はこの間、海軍・空軍・ミサイル部隊の強化を中心に多額の資金を投じており、陸軍にはさほど注力していないという。その結果、先進的な軍艦、戦闘機、ミサイルを多数保有していると述べた。

中共総書記、中央軍委主席習近平2024年12月参加澳門新特首就職典礼時、検閲中国人民解放軍の駐澳門部隊。(美聯社)
ブレア氏は、中国は先進的な武器を持っているが、人材の質はばらつきがあると考えている。(写真/AP通信)

両軍とも実戦経験はほぼゼロ 「動的な評価」が必要だ

ブレア氏は、中国軍が先進的な装備を持っている一方で、人材の質に大きなばらつきがある点が解放軍の弱点だと指摘した。そのような人材が最新兵器を十分に扱えるかは疑問であり、個人的には懐疑的な見方をしていると述べた。

また、軍人であれば誰もが訓練に励み、実戦を想定した演習に取り組むが、本当の戦争は弾が飛び交い、負傷者が出る極限状況であり、シミュレーションでは代替できないとも語った。解放軍は1979年以降、実戦経験がなく、その実力を単純な数や装備で測ることはできない。軍艦の数ではなく、それぞれの装備がどのような作戦目標を達成できるのか、動的な観点で見るべきだと強調した。

さらに、合同対潜作戦、上陸阻止、ミサイルや対空防衛などの能力が重要であり、こうした観点で見れば、中国軍の軍拡は目覚ましいものの、台湾防衛を突破するには力不足だと語った。ましてやアメリカが支援する状況下では、台湾への侵攻はなおさら現実的ではないとした。

その上で、軍備拡張という点では中国だけでなく台湾とアメリカも防衛力を強化しており、「米台の抑止力は非常に高いが、それは静的なものではなく、中国の変化に応じて絶えず対応していく必要がある」と述べた。

ブレア氏は、台湾軍もまた実戦経験が乏しい現実に直面していると指摘する。長い間、戦争を経験しておらず、さらに国際社会の中で孤立しているため、アメリカや日本といった他国との本格的な軍事演習が難しい。その結果、訓練や演習の多様性も欠いており、これが実戦対応能力に影響を与えていると述べた。

中国軍の課題が「人」であるなら、台湾軍の課題は「連携と実戦経験」だという見立てである。

20211023-憲兵曾於2017年台北世大運前的反恐演練、及去年漢光演習期間憲特搭曾乘雲豹八輪甲車進場攻堅(見圖),然而實務上是否適合憲特城鎮都會區運用,卻有待商榷。(取自憲兵指揮部臉書)
ブレア氏は、中国は先進的な武器を持っているものの、人材の質にはばらつきがあると見ている。(写真/憲兵指揮部フェイスブック)​

台湾軍の地の利は強み ただし危機感の欠如が最大の弱点

一方でブレア氏は、台湾軍が任務をよく理解していると評価している。中国が上陸を試みるとすればどの浜辺に来るのか、どのエリアが空挺作戦の標的になり得るかについて、台湾軍は把握しており、自国の地形や道路、山岳地帯についての知識に基づく「地の利」を備えているという。

だがそれでも、台湾社会の一部に根強く残る「中国は同じ民族だから攻撃してこない」「アメリカが必ず助けてくれる」といった安易な楽観主義が、防衛に対する真剣さを欠く要因になっていると指摘。こうした「危機感の欠如」こそが、台湾防衛の最大の弱点であると警鐘を鳴らした。

現在、一部の台湾の指導者たちはすでにそのリスクに気づき、軍備強化へと動き始めているが、変化を望まない層が一定数いることも事実だとして、「このままでは非常に危険だ」と締めくくった。

​編集:田中佳奈