米中交渉、主導権は中国にあり?トランプとの電話会談が映す米中力関係の変化

2025-06-17 12:52
2019年に大阪で米国大統領トランプ氏と中国主席習近平氏が握手。(AP通信)
2019年に大阪で米国大統領トランプ氏と中国主席習近平氏が握手。(AP通信)
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米国のトランプ大統領が関税戦を開始した後、中国の習近平国家主席と5日に電話会談を行い、その後、米中交渉代表は英国ロンドンで3日間連続の貿易交渉を開始した。元海基会会長の洪奇昌氏は『風傳媒』に対し、今回のトランプ・習近平会談は、中国がいかなる実質的な譲歩も行っていない段階で、トランプ側からの通話を実現させたものであり、この外交的な働きかけ自体が、北京指導部の「議題の主導権と国際情勢」に対する精緻な掌握力を示している。

トランプ・習近平会談および米中交渉に関し、洪奇昌氏は五つの視点から分析と解釈を示した:

1. 中国は譲歩せず、議題を主導

洪奇昌氏は、中国側が通話の中で既存の立場を再確認し、関税、技術規制、台湾問題といった核心的な議題において実質的な譲歩を示さなかったにもかかわらず、「米中が再び対話に乗り出した」との印象を巧みに演出したと指摘する。この主導的な通話は、米中間のハイレベルな意思疎通に象徴的な正当性を回復させただけでなく、国際社会の視線をワシントンの対応へと向けさせ、トランプを拙速かつ主導力に欠ける存在として印象づける結果となった。

2. 世界的な交渉意欲への示範効果

洪奇昌氏は、今回のタイミングで中国がトランプと直接通話したことにより、各国に対して明確なメッセージを発したと分析する。すなわち、同盟国との結束力や政策の一貫性を欠く現状において、米国はもはや絶対的な交渉主導権を有していないという認識である。これにより、EUやASEAN、さらには米国内の企業においても、今後の対米交渉において慎重姿勢が強まり、様子見の空気が一層濃くなることは避けられない。

2025年5月30日,馬斯克在白宮橢圓形辦公室與川普舉行記者會。(美聯社)
洪奇昌氏は、トランプ・習近平通話の直前、マスク氏とトランプ氏の間でAI規制や新エネルギー政策をめぐる意見の対立が表面化したことに言及し、これは共和党内におけるテクノロジー重視派とポピュリズム派の矛盾が拡大している象徴であると指摘した。(AP通信)

3. トランプ政策の継続性への疑念が深まる

洪奇昌氏は、トランプ・習近平通話の前夜、マスク氏とトランプ氏の間でAI規制や新エネルギー政策をめぐる対立が公然化したことに触れ、これは共和党内におけるテクノロジー派とポピュリズム派の矛盾が拡大している象徴であると指摘した。中国がこのタイミングで通話を仕掛けたことは、トランプが内政・外交の両面で苦境にあることを際立たせるものである。習近平による今回の戦略的な働きかけは、単なる通話にとどまらず、トランプの脆弱性を的確に捉えた戦術的圧力テストとも言える。

4. 北京の戦略的メッセージ:国際対話の必要な参加者であり続ける

洪奇昌氏は、今回の通話における最も重要な象徴的意味は、中国が「譲歩せずとも国際的な注目を集められる」という外交能力を改めて対外的に示した点にあると指摘する。レアアース貿易をめぐる主導権の確保にせよ、台湾問題における強硬な発言姿勢にせよ、中国は依然として国際議題の設定権を有しており、アメリカの対応を待つ側ではないことを世界に証明したのである。

5. 韓国選挙結果:周辺戦略環境が転換

洪奇昌氏は、韓国大統領選の結果が確定し、新たに当選した指導者が対中姿勢において比較的穏健であり、中韓間の経済交流の安定維持を重視する傾向があると分析する。これにより、北京が東北アジアで直面する外交的圧力は大きく緩和され、「米日韓三角同盟」が中国に対して発揮してきた圧力の結束力も弱まった。このような情勢の変化は、北京が台湾海峡、南シナ海、さらには第一列島線全体における問題処理において、より多くの選択肢と行動の余地を持てることを意味する。習近平はこうした状況を背景に、トランプとの対話においても、譲歩や焦りを見せることなく、より強い戦略的自信をもって臨むことができたのである。

2025年6月4日,南韓新任總統李在明與第一夫人金惠景出席總統就職典禮。(美聯社)
2025年6月4日、韓国の新大統領、李在明氏とファーストレディの金恵景氏が大統領就任式に出席。新大統領は、中国に対して比較的穏健であり、中韓の経済交流の安定を維持する指導者と見られている。(AP通信)

洪奇昌氏は上記の5点を総括し、「トランプ・習近平通話」は単なる外交的儀礼ではなく、戦略的地位の宣示と交渉の主導権を巡る争いであると述べた。トランプにとって、この通話は現実を受け入れる受動的な始まりであると同時に、対中政策の方向性を再構築する転換点となる可能性がある。そして世界にとっては、トランプの主導的な対応が、ますます多くの国々に対して、米中の覇権争いの中で真の「安定的選択肢」とは誰かを再考させる契機となるだろう。

洪奇昌氏は、中国が周辺情勢の掌握と議題の主導権を今回の通話で見事に示したと指摘する。韓国選挙の結果は、米国の同盟網を弱体化させる地政学的な緩衝材となり、トランプが内外の困難に直面していることが中国にとって拒否し難い状況を生んだという。

洪氏は、習近平がこのタイミングで「主導的に通話を仕掛けた」ことは、単なる友好の表明ではなく、沈黙のうちに戦略的優位性を誇示する行為であると強調した。この対話の真の勝者は、最も多く語った者ではなく、発言のタイミングを選べる者である可能性が高い。

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