特定中国パスポート保持者、台湾身分取消で幽霊人口化の現状

2025-06-19 10:20
中国の境界観光旅券の外観は一般的な中国本土の旅券と変わらず、台湾の法律では、台湾の市民が中国本土の旅券を利用することを禁じており、違反すると台湾の身分が抹消される。(ウィキペディアより)

台湾・台中市のある旅行会社で責任者を務める顏氏の男性は、2017年に中露国境へのツアーを引率した際、誤って「中国国境観光用旅券」を使用したことにより、台湾の戸籍および旅券を抹消され、「幽霊人口」となった。本件について、行政院大陸委員会(陸委会)は先週、注意喚起として言及し、台湾の国民に対し「レッドラインを踏まないように」と呼びかけた。顏氏は《風傳媒》の取材に対し、「当時、台湾側は私に説明の機会すら与えず、一方的に戸籍と旅券を抹消した。関係各所を回っても問題は解決せず、あまりに理不尽で、そのときは本当に無力感に襲われた」と語っている。

中国大陸・福建省で教鞭を執っていた「台湾籍教師」張立齊氏が、中国の「定居証(定住証)」を取得していたことが発覚し、これを理由に大陸委員会(陸委会)から台湾の身分を抹消された。この一件をきっかけに、どのような行為が「レッドライン」となり、台湾籍や旅券の抹消に繋がるのかが、陸委会の間で注目の議題となっている。陸委会副主任委員の梁文傑氏は先週、2017年に台湾人ガイドが「中国国境観光用旅券」を使用したことで台湾の戸籍を抹消された事件に再び言及し、一般市民に注意を呼びかけた。8年の歳月を経て、当時の事件が再びメディアの脚光を浴びている。関係者によれば、当事者の顏氏は台中市内の小規模旅行会社の責任者であり、同氏は大手旅行会社が主催する中国・吉林省およびロシア・ウラジオストクを巡る5日間のツアーに、自ら団員を引率する形で同行したという。ツアー中に中露国境を越える際、「中国国境観光用旅券」を使用してロシアに入国した。しかし、「両岸人民関係条例」において、台湾国民が中国本土で戸籍を持ったり、中国の旅券を所持したりすることは禁止されている。帰国後、顏氏は外交部および戸政機関から通知を受け、台湾の旅券と戸籍を抹消されるに至った。

顏氏が当時使用した「中国国境観光用旅券」は赤い表紙で、表面には「中華人民共和國護照」の文字が記されており、外観は通常の中国本土の旅券とほとんど違いがない。しかし、内ページには「旅行団体に随行する場合に限り、1回限りの出入境に有効」との文言が明記されている。

顏姓負責人2017年因持中國邊境旅遊護照遭註銷台灣身份,該護照上有註明僅「一次出入境有效」。(顏姓負責人提供)
顏氏は2017年、「中国国境観光用旅券」を所持していたことを理由に台湾の身分を抹消された。同旅券には「1回限りの出入境に有効」との注記がある。(写真/顏氏提供)

顏氏は《風傳媒》の取材に対し、当時この処分を受けたことに非常に驚いたと語っている。政府は少なくとも説明の機会を与えるべきであり、裁判所が被告に陳述の機会を保障するのと同様に、行政処分においても当事者の説明を聞く手続きが必要であるにもかかわらず、自身の場合は一方的に台湾の身分を抹消されたという。最も困ったのは、台湾の戸籍を失ったうえに中国本土の戸籍も持っておらず、身分証も旅券も失ったことで、まるで世界から「忽然と消えた」かのような状態に陥ったことだと語る。 (関連記事: 中国籍配偶者1.2万人が除籍危機 国台弁が猛反発「人倫に反し、道義を失っている」 関連記事をもっと読む

さらに顏氏によれば、台湾の旅券が失効したことで出国もできず、再発行のためには身分証が必要だった。しかし身分証の発行には、「中国本土に戸籍がないことを証明する書類」を提出するよう求められた。一方で、中国側の証明書を取得するには台湾の旅券が必要であり、そもそも渡航が不可能な状況であった。この矛盾した要件のループには解決策がなく、「本当に理不尽で、強い無力感を覚えた」と訴える。