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人物》台湾・民進党の実力派、頼瑞隆氏とは何者か 頼清徳総統の信任厚い幹部が「つまずき」を重ねる背景 民進党の頼瑞隆氏は高雄市長選(党内予備選)への出馬をにらみ積極姿勢を見せる一方、子どもの校内いじめ疑惑への対応が後手に回り、選挙戦への影響も取り沙汰されている。(写真/蔡親傑撮影)
台湾・民進党立法委員の賴瑞隆氏が、ここに来て政界での存在感を急速に高めている。一方では、2026年に予定される民進党・高雄市長選の党内予備選を見据え、着々と動きを強めている。その一方で、私生活をめぐる問題が相次ぎ、世論の注目を集める事態となっている。 発端は、子どもが関与したとされる校内いじめ問題だった。賴氏は短期間のうちに2度、公の場で謝罪に追い込まれた。騒動が完全に収束しない中、12月10日の「世界人権デー」には、監察院長で元高雄市長の陳菊氏の若い頃の白黒写真をフェイスブックに投稿し、「陳菊(通称『花媽』=親しみを込めた愛称)氏を思う」と記した。文脈の説明がないままの投稿だったため、「何かあったのではないか」と憶測を呼び、最終的に「早期のリハビリ回復を願う」と追記する形で事態を収めることになった。
これまで党内では、賴瑞隆氏は「波風を立てず、任された仕事をきちんと収めるタイプ」と見られてきた。行政経験も豊富で、私的な問題や感情的な争点で世論の焦点になることはほとんどなかった。それだけに、ここ最近の一連の出来事は、「安定型」「低衝突型」と評されてきた賴氏のイメージに変化が生じているのではないか、との見方を呼んでいる。
高雄市長選の党内予備選は競争が激しく、先行しているとみられていた頼瑞隆氏(右から2人目)も相次ぐ騒動で逆風に直面している。(写真/高雄市政府提供)
校内いじめ対応の遅れが浮き彫りにした限界 8歳の息子が関与したとされる校内いじめ問題が表面化した後、賴瑞隆氏は声明を発表し、立法院で臨時の記者会見を開いて謝罪した。説明によれば、問題はサッカー活動中のトラブルが発端で、学校側が介入して指導を行っており、家庭としても学校と協力して対応しているとしたうえで、「教育と修復のための時間を与えてほしい」と理解を求めた。 しかし、被害児童の保護者は後にメディア取材に対し、問題発覚の前後を通じて、賴氏夫妻から私的な謝罪は一切なかったと証言。学校側が複数回連絡を試みたものの、電話がつながらなかったとも訴えている。
さらに、防犯カメラの映像には、賴氏の子どもが自ら同級生に暴力を振るい、トイレの外で長時間にわたり威圧する様子が記録されていた。それにもかかわらず、賴氏側が当初「子ども同士の摩擦」と表現したことが、対応の遅さや認識の甘さとして批判を招いた。市場育ちで庶民感覚を持つ、温厚で人情味のある政治家という賴瑞隆氏の人物像は、この一件で大きく揺らぐことになった。
いじめ疑惑を「子ども同士のいさかい」とするような説明が一時見られたことで、「市場育ちで庶民感覚がある」「温厚で人情味がある」といった頼瑞隆氏のイメージにも疑問の声が出た。(写真/陳品佑撮影)
賴清徳氏の「虎頭鍘」を担った冷徹さ この判断は、「頼清徳氏(民進党主席)の処断の象徴」とも評され、党内の引き締めに大きく寄与したとされる。もともと台南市議長選では、党紀維持のために現場で陣頭指揮を執っていた人物でもあり、不祥事発覚後は一転して処分を下す立場へと移行した。その切り替えの速さが、頼清徳氏からの信頼を一層厚くした。民進党関係者の一人は、「賴氏は感情で動かない。やるべきか否か、それだけを見る人物だ」と語る。
頼瑞隆氏は民進党「中評会」主任委員として、贈収賄事件で名前が挙がった台南市議会議長の邱莉莉氏(写真)に対し、迅速に党紀処分を決定した。(写真/顏麟宇撮影)
効率重視の仕事術が生んだ摩擦 賴瑞隆氏の性格は、長年の行政経験の中で形成されてきた。立法委員の秘書から政治の世界に入り、蘇貞昌氏、賴勁麟氏、陳菊氏といった要人の下で経験を積んだ。高雄市政府では約10年間、新聞局長や海洋局長を歴任し、現場対応や対外説明、首長の盾となる役割を担ってきた。
共に働いた元官僚は、「賴氏は常に『物事を掌握する』ことを最優先する。期限、責任者、可否を明確にし、曖昧さを嫌う」と評する。一方で、現場の不満や感情的な訴えに時間を割いて寄り添う場面は多くなかったという。それは冷淡さというより、「感情に寄り添うことが問題解決につながるとは限らない」という考え方に基づくものだった。この姿勢は行政運営では高い効率を発揮するが、校内いじめのように被害感情が中心となる問題では、致命的なズレを生んだ。
頼瑞隆氏は実務の速さで知られ、高雄市政府の新聞局長時代には「黄色いアヒル」展示イベントの企画を主導した。(写真/陳其邁氏のフェイスブックより)
任務遂行型の政治家が直面する試練 賴瑞隆氏のもう一つの特徴は、党の指示に対する強い忠実さだ。中評委員や中評会主任委員として、個人的な主張を前面に出すことはほとんどなく、与えられた役割を黙々とこなしてきた。この姿勢が、党内で「重要な役割を任せられる人物」という評価につながっている。 派閥事情に詳しい関係者は、「賴氏が、声の大きさで勝るわけでもないのに中評会主任委員に就いたのは、決断の早さと迷いのなさがあったからだ」と指摘する。
ただし、行政官型の思考、効率重視、全体管理を優先する性格は、感情や共感が問われる場面では弱点にもなり得る。高雄市長選に向けた動きが本格化する中で、これまであまり知られてこなかった賴瑞隆氏の素顔が、より強い光の下で検証され始めている。「物事を収める政治家」から、「人の感情を受け止める政治家」へと変われるのか。それは、賴瑞隆氏が次の段階へ進めるかどうかを左右する、大きな分岐点となりそうだ。
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