杜宗熹氏コラム:米国も中国と日本の間でバランス外交? 馬英九氏の「正しさ」を証明したのは、なんとトランプ氏だった

2015年「馬英九・習近平会談」の資料写真。(写真/林瑞慶撮影)
2015年「馬英九・習近平会談」の資料写真。(写真/林瑞慶撮影)

11月7日、高市早苗首相は国会答弁で、「台湾有事」が発生した場合、日本にとって集団的自衛権を行使し得る「存立危機事態」に該当するとの認識を示した。これは、米国が明確な態度を示さない状況下でも、日本が台湾海峡への軍事介入に踏み切る可能性を示唆した発言として注目された。この発言からすでに1か月余りが経過したが、日中関係は冷却するどころか、むしろ温存されている。その一方で、この問題に対する米国のトランプ政権の態度は、以前にも増して曖昧さを帯びている。

もともと米国の両岸関係に対する基本方針は「戦略的曖昧さ」にある。過去数十年にわたり、第1期トランプ政権やバイデン政権期を除けば、大きな変化は見られなかった。平易に言えば、米国は台湾を中国の一部であるかのように扱う「ふり」をする代わりに、中国側に台湾海峡の現状を武力で変更しないことを約束させてきた。こうした米中間の「何事もないふり」をする関係は、トランプ氏の再登板によって、より露骨な政策として表面化している。

2025年12月8日。アメリカ大統領トランプがワシントンのホワイトハウス内閣室で演説。(AP)
2025年12月8日、米国のドナルド・トランプ大統領がワシントンのホワイトハウス・内閣室で演説した。(AP通信)

誰もが問う「トランプ氏は何を考えているのか」

今週、日本の公益財団法人「フォーリン・プレスセンター(FPCJ)」は、日本を代表する中国研究者の一人である東京大学教授の阿古智子氏を招き、海外メディア向けの講演を開催した。急速に変化する日中関係の現状、中国が取る行動の背景、日本が直面する外交・安全保障上の課題、さらには日本の対応について説明が行われ、多くの外国人記者の注目を集めた。

講演内容は非常に充実したもので、阿古氏は今回の一連の動きを多角的に分析し、両岸関係や日中関係に対する自身の見解も示した。ただ、全体を通じて筆者が強く印象づけられたのは、海外メディアの関心が必ずしも日中関係そのものに限定されていなかった点である。記者たちが最も強い関心を示していたのは、「トランプ氏はどこにいるのか」「トランプ氏の立場は何なのか」「仮にトランプ氏が日本を支持しない場合、日本はどのように対応すべきなのか」といった問いだった。

共同通信によると、米ホワイトハウスのリーヴィット報道官は11日の記者会見で、日中関係の緊張について問われ、「トランプ大統領は、日本との非常に強固な同盟関係を維持する一方で、中国とも良好な協力関係を保つべきだと考えている」と述べた。この発言は、米国が日本と中国の双方との関係維持を重視し、対立から距離を取ろうとしている姿勢を示唆している。

これは、過去数十年を振り返っても、ほとんど例のない状況だ。背景には、トランプ氏が中国との駆け引きで決定的な優位を確立できていないこと、軍事面における米国の対中優位が徐々に縮小していること、さらに中国が「レアアース」という切り札を握っている現実があるとみられている。 (関連記事: 徐和謙の視点:トランプ文書が示す「世界観」と台湾海峡の行方 関連記事をもっと読む

こうした状況下で、もしトランプ氏が中国に対して「関与政策(エンゲージメント・ポリシー)」を維持し、来年4月にも北京訪問を検討しているとの観測が事実であれば、それは日米関係のあり方に変化が生じていることを意味する。この背後にある構造的な深層変化は、すべての関係国にとって無視できないものであり、とりわけ台湾の人々にとっては、今後の地域情勢を見極める上で、より一層注意深く見守る必要があるだろう。

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