人物》元台北市長・郝龍斌氏、「将軍の息子」も及ばず 国民党主席選で敗北

2025-10-19 09:38
国民党主席選が決着。「穏健路線の代表格」郝龍斌氏は最後まで追い上げたものの、逆転ならず。(写真/柯承恵撮影)
国民党主席選が決着。「穏健路線の代表格」郝龍斌氏は最後まで追い上げたものの、逆転ならず。(写真/柯承恵撮影)
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台湾・国民党主席選は10月18日に投開票が行われ、約1か月の選挙戦を経て新たな党首が決まった。元台北市長の郝龍斌氏は、同じく候補の鄭麗文氏に及ばず、逆転はならなかった。現職の朱立倫氏と郝氏はいずれも直轄市長を経て国政に進んだ穏健・中道路線の政治家で、米中の狭間で均衡を図る党内“建制派”(党主流の穏健・現実路線)に属する。だが、2016年大統領選で朱氏(建制派)、20年で韓国瑜氏(深藍)、24年で侯友宜氏(建制派)と振り子が揺れた末、今回の主席選で郝氏が敗れたことで、党内の力学は再び“深藍”(国民党の強硬保守派)寄りへ傾いたとの見方が強まっている。

郝龍斌氏は、1952年生まれ。父は元行政院長で元参謀総長、陸軍一級上将を務めた郝柏村氏。台北市成功高中を経て、1971年に再受験で台湾大学農業化学系へ。兵役後に渡米し、1984年にマサチューセッツ大学アマースト校で食品科学の博士号を取得、帰国後は台湾大学食品科学研究所で教鞭を執った。

郝柏村。(新新聞資料照)
父は元行政院長・元参謀総長の郝柏村氏(写真)。良家の出ながら、郝龍斌氏は専門官僚として政界入りした。(写真/新新聞資料)

境政策で評価 民進党政権でも入閣

国民党在籍期に党内の「新国民党連線」と李登輝路線の対立を経験。連線側が劣勢となり、1993年に新党を結成、翌94年に正式加入した。95年、99年に立法委員に当選。2000年の政権交代後、陳水扁政権は安定運営のためブルー陣営からも登用を進め、郝氏は2001年に環境保護署長に就任した。

在任中は、ギリシャ籍タンカー「アマース号」の墾丁・龍坑海域座礁事故に対応。さらに台南・二仁渓流域の金属スクラップ溶解業者を一斉摘発し、重金属の流出による土壌・水系・大気汚染の是正に取り組んだ。最大の実績とされるのは2002年に打ち出したレジ袋使用制限策。導入当初は賛否が割れたが、環保署統計では2023年時点で買物用レジ袋が年200億枚から90億枚へ減少。環境団体から評価され、時代のプラスチック削減潮流にも合致した。

また大台北の水源保全の観点から、2003年には坪林インターチェンジの建設を認めず、最終的に署長を辞任。2004年には中華民国赤十字会総会の事務総長に就任し、同年末のインド洋大津波では募金・復興支援を主導した。台湾赤十字は7.8億台湾元(約38億円)超を集め、インドネシア、スリランカ、バングラデシュ、モルディブなどで復興事業に投じられた。

郝龍斌、李應元、環保署長。(新新聞資料照)
郝龍斌氏(左)は陳水扁政権で環保署長を務め、レジ袋削減政策が象徴的な実績と評される。(写真/新新聞資料)

国民党に復帰、「山を打ち下ろす」 台北市長選に勝利

2006年、郝龍斌氏は国民党への復帰を表明し、台北市長の党内予備選に出馬。馬英九市政の副市長・葉金川氏、現職立法委員の丁守中氏と争い、最終的に指名を獲得して本選でも勝利した。郝氏は陸軍参謀総長を務めた父・郝柏村氏に「総長、ご報告します。山を打ち下ろしました」と伝えたという。第1期は淡水河の生態復元や市の下水道普及率向上に注力。都市の基盤整備としては評価された一方、市民受けは今ひとつだった。

連任をかけた2010年の台北国際花博は、当初“緑営”(民進党系の与党陣営)から激しい追及を受け、とりわけ「新生三館」での空心菜栽培展示が「教育維持費を要するのに市場価格の39倍」と批判され、花博は一時ダメージを負った。だが開幕後の実体験は市民の評価を変え、結果として当時の対立候補・蘇貞昌氏に17万票差の大勝。花博の成功が勝因だったとの見方が広がった。その後の2期目では、1999専線、台北—上海「双城フォーラム」、路平プロジェクト、そしてYouBikeのシェアサイクルを打ち出し、いずれも今日の台北、ひいては台湾を象徴する都市政策となっている。

Youbike公共自行車。(柯承惠攝)
1999専線やYouBikeは、郝龍斌氏が台北市長時代に打ち出した代表的な政策だ。(写真/柯承恵撮影)
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