台湾、公共交通の「博愛座」名称を変更へ 制度見直しで「道徳的強制」に終止符

2025-06-24 18:36
長年にわたり賛否を呼んできた「博愛座(優先席)」制度が、大きな転機を迎えることに。(画像/ウィキペディア)
長年にわたり賛否を呼んできた「博愛座(優先席)」制度が、大きな転機を迎えることに。(画像/ウィキペディア)
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台湾立法院(国会)は6月23日、公共交通機関における「博愛座(優先席)」の呼称を「優先席(Priority Seat)」に変更する法案を可決した。これにより、長年にわたり議論を呼んでいた「博愛座」制度は大きな転機を迎えることとなった。

新たに可決された「身心障害者権利保障法」第53条の改正により、これまで明文化されていた「老弱婦孺(高齢者、女性、子ども)」への優先規定が削除され、「実際に必要とする人」への配慮が求められることとなる。対象は地下鉄、バス、鉄道、新幹線を含むすべての公共交通機関におよび、優先席の設置割合(全座席の15%)は現行のまま維持される。

政府はまた、全国で統一されたピクトグラム(優先席マーク)を定める方針を明らかにし、交通部(交通省に相当)と衛生福利部(厚生労働省に相当)が共同で啓発活動を進めるとしている。

背景にある「道徳的強制」への批判

この法改正の背景には、いわゆる「道徳的強制」への社会的反発がある。近年、台湾では「博愛座」を巡るトラブルが頻発しており、特に若者に対する不当な叱責や侮辱が問題視されていた。

象徴的な出来事として、今月上旬、基隆市内を走るバス車内で発生した事件が挙げられる。博愛座に座っていた中学生が、年配の女性乗客から立席を求められた上に、席を譲ったにもかかわらず執拗に叱責され、スマートフォンで撮影されるなどの「公開説教」を受けた。中学生はその場で泣き崩れ、同乗者からは「教育ではなくハラスメントだ」との声が上がった。

SNSでは「子どもが譲ってもなお叱るのは教育ではなくパワハラ」「博愛座はもう“博愛”ではない」「制度そのものが若者への圧力になっている」といった意見が殺到。制度の見直しを求める声が高まっていた。

海外との比較:日本・韓国との文化的な違い

このような問題は韓国でも見られ、「交通弱者席」を巡って世代間や性別の対立が表面化している。たとえば、地元の地下鉄では車両両端に設置された「交通弱者席」や「妊婦優先席」において、車内が空いていても若い乗客が意図的に座るのを避けるケースが多い。これは「マナーがない」と年配者から叱責されたり、時には口論や身体的な衝突に発展することを恐れての行動とされている。また、妊婦優先席に関連しては、男性乗客の間から「座るだけで批判された」「フェミニズム的な偏見を受けた」といった声もあり、性別間の摩擦を生んでいる。

一方で、日本では同様の「優先席」が存在するものの、大きな衝突はあまり報告されていない。その理由については「自尊心の文化」によるものと指摘されている。日本では高齢者の多くが「他人に席を譲られること」を好まず、自身の力で立つことを選ぶ傾向にあり、「譲られる=老い=弱者」という認識を避けようとする意識が強いとされる。

社会の成熟度が問われる

台湾政府が今回導入する「優先席」制度は、単に名称の変更にとどまらず、公共の場におけるマナーと共感力を再考する契機となる。今後は制度への理解促進とともに、「譲る自由」「座る自由」が尊重される成熟した社会づくりが求められる。 (関連記事: 台湾鉄道の運賃大幅改定 悠遊カード特典も縮小へ 9つの変更点を徹底解説 関連記事をもっと読む

編集:梅木奈実

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