台湾、独自衛星ネットワーク構築へ 中国の宇宙軍に対抗、欧州と連携強化

2025-06-23 15:00
国防部は2025年の4年期国防総検討(QDR)で初めて「宇宙」を作戦整備の方向に取り入れた。参考画像、フォルモサ衛星。(画像/国家宇宙センター提供)
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米インド太平洋軍の前司令官デービッドソン(Philip Davidson)氏は2021年の退任前に行われた米議会公聴会で、中国が2027年までに台湾への軍事的行動に出る可能性があると警告した。これを皮切りに、米国の軍政関係者から同様の懸念が相次ぎ、中国人民解放軍が2027年までに台湾侵攻の能力を備えるとの見方が広がっている。台湾では、いわゆる「デービッドソン・ウィンドウ」と呼ばれる時間軸を背景に、2025年度の漢光演習でその脅威を具体的に想定。国防部は2025年の4年期国防総点検(QDR)において初めて「宇宙」を作戦準備方向に組み入れた。

台湾の宇宙戦略の構想は、蔡英文前総統の時代に徐々に明確化された。特に2022年のロシア・ウクライナ戦争以降、低軌道衛星の重要性が国際的に再認識され、台湾でも衛星インフラの整備が急がれている。しかし、コロナ禍による部品供給の混乱により、台湾の宇宙開発第3期計画は進行に遅れが生じた。国家科学技術委員会は6月13日、「新3期計画」を行政院に提出済みで、現在は卓栄泰院長の承認待ちとなっている

2025年2月2日、搭載日版GPS衛星の国産H3運搬ロケット発射。(美聯社)
未来の戦争に備え、軍事大国はこぞって宇宙戦にリソースを投入している。画像は2025年に日本版GPS衛星を搭載したH3運搬ロケットが発射される様子。(AP通信)

蔡英文が台湾の宇宙計画を策定 低軌道衛星がロシア・ウクライナ戦争で国際合意に

当初の蔡政権の目標は「10年間で年1基の衛星打ち上げ」だったが、パンデミックで計画は停滞。2020年に「宇宙開発法」が施行され、2023年には宇宙センターが国家実験研究院から行政法人に昇格したものの、蔡政権下で打ち上げられたのは2019年のフォルモサ7号6基、2023年10月の海洋観測衛星トリトン(TRITON)、そして2017年のフォルモサ5号のみだった。

国際情勢の変化により、台湾の宇宙政策は「科学研究主導」から「任務指向」へと転換している。賴清徳政権下でも宇宙センター長は「ロケットおじさん」として知られる吳宗信氏が続投し、新たな「新3期」計画では予算が当初の251億元から650億元(約3,300億円)まで増額され、計画期間も2031年まで3年延長された。

新計画では、①リモートセンサ衛星網の構築、②内製による通信衛星産業の育成、③自前ロケット打ち上げ技術の確立を三本柱とし、2031年には計12基の低軌道衛星(気象・光学・レーダー・通信)が台湾上空に展開される予定。さらに屏東県満洲郷には自社ロケット発射場の整備も進められる

20230915-蔡英文総統は15日に「2023年台北国際航空宇宙防衛産業展」でフォームサ8号衛星を視察。(陳昱凱撮影)
蔡英文総統在任中に台湾の宇宙計画が策定された。写真は蔡英文総統(右から2番目)が「2023年台北国際航空宇宙防衛産業展」でフォームサ8号衛星を視察している様子。(写真/陳昱凱撮影)

与野党の支援を受けた宇宙計画 衛星開発には懸念

新計画は卓栄泰院長の決裁を待っているが、立法院では6月18日、「競争宇宙空間」に関する特別報告が実施され、与野党ともに宇宙技術開発への支持を示した。一方、国民党の萬美玲立法委員は、B5G-1AおよびB5G-1Bという2基の高性能通信衛星が当初外注されていたにもかかわらず、今後は工研院が製造を担当することへの懸念を表明。6基の製造を終えた時点で契約が打ち切られるとの報道もある。

現在、B5G-1Aは外注で2027年に打ち上げ、B5G-1Bは2030年に飛行試験予定とされるが、工研院が契約を解除すれば、通信衛星の国産化がさらに遅れる恐れがある。吳宗信氏は、宇宙センターがB5G-1Bの任務を引き継ぎ、改善の上で2030年打ち上げを予定通り実施すると保証している。6月の再検査ではまだ審査が続いており、宇宙センターはコスト削減条件での衛星受領も検討中とされる