「頼清徳政権1年」を振り返るセミナー、早大で開催 日台研究者が警鐘「リコールは政治対立を深める恐れ」

2025-06-20 17:30
早稲田大学で講演する政治大学の石原忠浩副教授。罷免によって政治の行き詰まりが解消されるとは限らず、むしろ対立の激化を招く可能性があると指摘した。(写真/黄信維撮影)

早稲田大学台湾研究所は6月20日、「頼清徳政権1年目を振り返る」と題した台湾情勢セミナーを開催した。講師として登壇したのは、台湾・政治大学日本研究プログラムの石原忠浩副教授。中国からの軍事的圧力や、野党多数による立法院(国会)での政策停滞など、内外の政治的課題に直面する頼清徳政権の現状について分析が行われた。

本イベントは、早稲田大学台湾研究所が主催、日本台湾学会の定例研究会(東京)と共催で実施され、日本と台湾の研究者、報道関係者、留学生ら多数が参加した。石原氏は長年にわたり台湾に滞在し、台湾政治や日台関係、外交政策を専門としている。かつては交流協会(現・日本台湾交流協会)にて調査員を務めた経験も持つ。

「リコール」で政治膠着は解消されるのか?《風傳媒》からの質問に回答

セミナーの質疑応答では、《風傳媒》記者による「リコール運動によって政局打開は可能か」との質問に対し、石原氏は「政治的対立をむしろ深刻化させる可能性がある」との見解を示した。実際、政権側が提案した安全保障に関する野党党首向けブリーフィングにも、国民党と民眾党が出席を拒否した例を挙げ、「対話の土壌自体が欠如している」と分析した。

また、石原氏は「リコールが成功しても、対立構造がさらに強まるだけで、2026年の地方選挙までは政治的膠着が続くだろう」との見通しを示した。

「中華民国」使用頻度の変化と背景

頼総統が公式演説で「中華民国」という表現を多用するようになった点についても質問が寄せられた。これに対し石原氏は、「2024年の選挙後はやや強硬な姿勢が見られたが、2025年5月の就任1周年演説では明らかにトーンが和らいだ」と指摘。その背景として、「アメリカからの要請」や「3月に『頼清徳17条』発表後の支持率低下」などの影響を挙げた。

台湾社会における危機認識と「準戦時心理」

中国の継続的な軍事演習が台湾社会に与える影響について、石原氏は「台湾の国民の多くは、現実に戦争が起きるとは考えていない」としつつも、「政界や軍・外交当局は危機感を強めており、米日と連携して情報共有や防衛協力を進めている」と説明した。

兵役制度改革についても言及し、「蔡英文政権から継承された制度を頼政権が継続し、17条でも国防強化の姿勢を打ち出している」と評価。「社会全体には大きな動揺は見られないが、“準戦時心理”は構築されている」と述べた。

今後の内政・外交の展望

内政面では、与野党の歩み寄りが見込めないまま、来年以降も政治的混乱が続く可能性があるという。特に2026年の地方選挙に向けて、国民党と民眾党が連携を強める構図も想定される。

外交面では、台湾は引き続き邦交国の減少に直面しており、米中関係の変化が台湾外交に及ぼす影響が注目される。民進党政権は「民主陣営の一員」としての立場を堅持し、実務的な外交姿勢を維持する方針だという。

日台関係の課題:「台湾有事」への認識ギャップ

最後に石原氏は、日台関係における課題として「日本社会における『台湾は存在しない』という認識のギャップ」を指摘。「台湾有事」への真剣な理解と認識の共有が、今後の二国間関係の深化には不可欠だと強調した。

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