評論》証拠なき拘留が常態化する台湾司法

2025-06-19 15:17
国民党台北市党部主任委員の黄呂錦茹氏が2ヶ月間勾留され、裁判所は延長を決定した。写真は国民党の徐巧芯立法委員(左から2番目)らが台北地検前で「黄呂主任委員、頑張れ」と声を上げる様子。(写真/顏麟宇撮影
国民党台北市党部主任委員の黄呂錦茹氏が2ヶ月間勾留され、裁判所は延長を決定した。写真は国民党の徐巧芯立法委員(左から2番目)らが台北地検前で「黄呂主任委員、頑張れ」と声を上げる様子。(写真/顏麟宇撮影
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「司法官」と「報応」について語るのは、いささか不思議にも思える。儒教的な「子不語怪力乱神(子曰く、怪力乱神を語らず)」の教えに従えば、検察官は科学的根拠に基づいて事件を処理し、法に則って判断すべき存在だ。目的は「悪を罰し、人民を守る」ことにある。

しかし、ここ1年以上、実際の捜査・審査においてそのような「実証」に乏しい事例が目立ち、「証拠があるから拘留し、証拠がなくても拘留する」といった対応が常態化しつつある。司法の役割とは何か。民主時代の根本的な問いが、改めて突きつけられている

柯文哲氏9か月拘束も金流不明 「粗暴な拘留」の再来か

賴清德総統が野党に向けて「国安簡報」を行うと発表する直前、リコール署名運動をめぐって拘留されていた国民党台北市支部主委の黃呂錦茹氏らが「文書偽造」の罪で起訴され、3か月の拘留が決定された。

これに対し、国民党の不分区立法委員である吳宗憲氏は、「検察や裁判所の判断は法に違反していない」と前置きしつつも、「実務上、極めて稀な対応だ」と指摘。「司法の素人である」と自ら述べつつ、「違法ではないが理解に苦しむ」と語った。このように司法関係者ですら解釈に苦しむ裁定に対し、政治的意図を疑う声も上がっている。

民眾党主席の立法委員・黃國昌氏も、総統府報道官の郭雅慧氏による「柯文哲氏と蔡英文氏の面会は非公開だが、黃氏はだめなのか」との発言に強く反発。「総統府が柯氏を“盾”として扱うのは極めて不誠実だ」と批判した。その背景には、柯氏が「京華城案件」で9か月以上拘束され続けているという事情がある。吳宗憲氏の言葉を借りれば、「違法性はなくとも、異例である」ことに他ならない。

民主化以降、政敵に対する司法的圧力は決して珍しいものではないが、司法界は政治以上に体裁と独立性を重視してきた。だが、柯氏の件で指摘される「異例さ」は、近年では見られなかった「粗暴な司法の再来」と受け取られている。

過去には、特捜部が陳水扁元総統の一家を汚職で捜査した際、大量の現金が官邸内で発見され、国際的なマネーロンダリング対策機関からも通知が届いていた。林益世元行政院秘書長の件でも、廃棄された現金の発見という明確な証拠があった。

青・緑の各派議員に関する詐欺事件も、金額や人数にかかわらず、物的証拠が揃っていた。しかし、柯氏の案件では、USB内の「1500」という記録が金流の証拠とされるものの、肝心の送金者・受取者が明示されておらず、「流れ」が特定されていない。押収から9か月半が経過した今も、新たな証拠は提示されておらず、拘束の根拠が問われている。

20250515-前民眾黨主席柯文哲15日至北院開庭。(顏麟宇攝)
民衆党主席の柯文哲はすでに9ヶ月以上勾留されている。(写真/顏麟宇撮影)

幽霊署名は削除済み、それでも拘留が続くのはなぜか

「利益供与」が必ずしも「現金収賄」を伴うとは限らない。これは事実である。しかし、金銭のやり取りが明らかでないまま拘留される事例は極めて稀だ。その理由は明快で、検察官が厳格に起訴できても、判決において裁判官が同様の判断を下すとは限らないためである。

とりわけ都市再開発のような案件では、主導権が都市再開発委員会にあることから、地方首長個人に責任を帰すのは難しい。柯文哲氏が初任期に取り組みながらも進展がなかった「大巨蛋(台北ドーム)」案件が好例である。

この「大巨蛋(台北ドーム)」案件は起訴に至ったが、裁判は長期化し、施設自体は市民から一定の評価を得て稼働している。関係者は長期にわたる係争に疲弊したものの、拘留された者はいない。

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