イランの濃縮ウラン計画と潜在的な核兵器保有の懸念を背景に、イスラエルは先週、イランに対して奇襲的な軍事行動を開始した。その後、両国は無人機やミサイルによる報復の応酬を繰り返している。こうした中、アメリカのトランプ前大統領は当初、外交的解決を模索していたが、最近は強硬姿勢を示し始めた。イランの最高指導者ハメネイ師に対し「お前がどこに隠れているか知っている」と発言し、無条件での降伏を要求している。
これに対し、ハメネイ氏は毅然とした態度でアメリカの要求を拒否。今後、米軍が参戦するか否か、そして「バンカーバスター」でイランの核関連施設を攻撃するかどうかが、両国関係の重大な分岐点になるとみられている。米メディア《Politico》はこの状況を受け、ワシントンの専門家7人に今後起こりうるシナリオを聞いた。
1. イランが核兵器獲得に踏み切る可能性も
ライアン・クロッカー氏(Ryan Crocker)/ランド研究所外交・安全保障部門議長、元アフガニスタン、イラク、パキスタン、シリア、クウェート、レバノンの米大使
アメリカがイランに対して実際に軍事攻撃を行った場合、イランは2つの選択肢に直面する。一つは交渉のテーブルに戻り、ある程度の濃縮能力を保持しようとすること。もう一つは報復に出ることである。
イランが選ぶ報復手段には、ホルムズ海峡の封鎖、アラビア湾地域のエネルギー施設への攻撃、さらには中東各地に展開する米軍や外交施設への傘下勢力による攻撃が含まれるかもしれない。イスラエルに対する影響力は低下しているが、そうした行動能力は依然として維持している。
ただし、イランが報復に出れば、アメリカの大規模な反撃を招く可能性が高くなる。航空戦力だけではイランの核開発能力を完全に排除するのは難しく、核科学者を物理的に排除し続けることも不可能だ。結局、濃縮活動を放棄させるには、検証可能な協定を通じてイランに同意させるしかない。さもなければ、軍事衝突は拡大し、イランが核兵器取得を本気で目指す決意を強めるだけだ。
2. 攻撃目標とその「伝え方」が結果を左右する
デニス・ロス氏(Dennis Ross)/ワシントン近東政策研究所ウィリアム・デイヴィッドソン特別研究員、元米中東問題特使
アメリカがイランを爆撃したらどうなるのかという問いは、一見シンプルだが実際には非常に複雑だ。重要なのは「どこを攻撃するか」と「それをどう伝えるか」である。
仮にトランプ氏が「イランが核の選択肢を持つことを許さない」という名目で、山中にあるウラン濃縮施設フォルドウを爆撃すると発表した場合、抑制的な行動と受け取られる可能性がある。イスラエルにはフォルドウを破壊する能力がなく、それができるのはアメリカだけだ。イランがこの施設を維持しているという事実は、イランが将来的な核保有の選択肢を残しているというメッセージに等しい。
トランプ氏が「これは戦争ではなく核兵器の敷居を超えさせないための限定攻撃だ」と宣言すれば、拡大は防げるかもしれない。しかし、仮にアメリカが政権交代まで視野に入れてより大規模な爆撃を行えば、イランの指導者は「失うものは何もない」と判断し、ホルムズ海峡の封鎖や、アメリカの中東同盟国の石油施設への攻撃といった強硬な手段に出る恐れがある。
それにより、原油価格が急騰し、トランプ政権が避けたい経済的打撃を引き起こす可能性もある。さらにイランは、世界中のアメリカの「ソフトターゲット」への報復も選択肢に入れるだろう。ハメネイ師は現時点で抑制を保っているが、ロシアなどの後押しがあれば行動に踏み切る可能性は否定できない。もしアメリカがより広範な軍事行動を選ぶなら、イランがどのような形で「痛みを返してくるか」を事前に考慮し、軍の配置などを見直す必要がある。
3. 始めるのは簡単、終わらせるのは難しい
イアン・ブレマー(Ian Bremmer)/ユーラシアグループ大統領兼創設者
これまでイランの指導者たちは、比較的抑制された対応を取ってきた。反撃はイスラエルに対して限定されており、ホルムズ海峡の封鎖や湾岸地域の米軍基地攻撃、エネルギー施設攻撃といった選択肢には手をつけていない。
だが、アメリカが戦争に本格介入すれば、状況は変わる。たとえば、フォルドウだけを攻撃する限定的な行動であれば、今の均衡は維持される可能性がある。アメリカとイスラエルには、イランに対して強硬な対応を取る手段がまだ残っている。
しかし、イラン軍の内部で指導層に反する行動が起きたり、統制が崩れたりすれば話は別だ。その場合、事態は急速にエスカレートする可能性がある。もしイスラエルが、フォルドウ攻撃の次の段階としてイラン指導部に対する直接的な攻撃を始めたら、それは全面戦争の引き金になりうる。
戦争は「始める」ことはできる。しかし「終わらせる」ことは、決して簡単ではない。
4.フォルドウ爆撃は最終打ではない
レイ・タキー氏(Ray Takeyh)/アメリカ外交問題評議会上級研究員
過去一週間、イスラエルはイランの核計画に対し深刻な打撃を加えた。唯一イスラエルの軍事力では届かない核施設が、クム郊外の山中にあるフォルドウである。これを破壊できるのは、高度な爆撃能力と特殊兵器を有するアメリカのみだ。トランプ氏は「もう一つの中東戦争を始めるか」「イランの武装解除を図るか」の間で難しい選択を迫られている。この判断は、今後の米イラン関係を大きく左右する可能性がある。
だが、状況が落ち着けば、イランは長年にわたり用いてきた非対称戦争、すなわちテロ戦術に回帰するだろう。米大使館、観光客、軍施設などが標的になりうる。そしてテヘランは、その責任を否定する可能性が高い。これに対しトランプ氏は行動を迫られ、報復の連鎖が始まるかもしれない。つまり、フォルドウ爆撃が最終打ではなく、むしろエスカレーションの幕開けになりうるということだ。
5.アメリカは全面攻勢に出る可能性が高い
ロバート・ペイプ氏(Robert Pape)/シカゴ大学政治学教授
フォルドウとナタンズ、両方の核施設はアメリカの空爆の初動で標的となるだろう。これらは戦略上、最も重要な目標であり、破壊できなければ空爆の意味はない。
しかし、それだけにとどまらず、攻撃対象は核関連施設を超える可能性が高い。アメリカは、イランが迅速に米軍基地に報復する可能性を認識しており、その対応時間はわずか数分だ。そのため米軍は、イラン国内の指令通信網(民間も含む)やミサイル拠点、軍事基地にも攻撃を仕掛けるだろう。
また、フォルドウやナタンズの地下施設に対しては、攻撃後に特殊部隊が坑道入口に爆薬を投下して閉鎖する作戦も考えられる。極めてリスクの高い任務だが、全体作戦の成功には不可欠かもしれない。
6.軍事行動ではイランとの対立は解決できない
ロビン・ライト氏(Robin Wright)/外交専門アナリスト
結局のところ、米イラン間の衝突は軍事手段では解決できない。どの戦争も持続可能な平和には外交が不可欠であり、軍事力だけでは新たな敵対行動を防ぐことはできない。
アメリカが攻撃するか否かにかかわらず、ワシントンは両国間の対話を主導できる唯一の存在だ。数十年にわたる「影の戦争」は、いまや直接攻撃の段階に突入しており、米国は軍事・外交の両面で仲介者としての責任を担っている。
さらに懸念されるのは、アメリカやイスラエルがイランの長期的意図を明確に理解していないことだ。トランプ氏が求める「無条件降伏」とは具体的に何を指すのか。ネタニヤフ首相はイラン市民に対して神権体制からの離反を呼びかけており、政権転覆を目指しているとも受け取れる。
報道によれば、トランプ氏とネタニヤフ氏はハメネイ師の暗殺についても議論し、最終的にはトランプ氏が否定したとされるが、18日には「今回の戦争はイランの神権政治を崩壊させる可能性がある」とも発言している。
イランの地理的規模は極めて大きく、ガザ、アフガニスタン、イラクなど過去の戦場に比しても、アメリカが一方的に支配できる相手ではない。過去の教訓を鑑みても、軽率な軍事介入は長期の泥沼化を招きかねない。
7.最終的にテヘランは外交を選ぶ
アラシュ・アジジ氏(Arash Azizi)/《アトランティック》誌の特約執筆者
イランは、対立を激化させて中東の米軍を直接攻撃するか、核合意を再交渉し受け入れるかという二択に直面する。アメリカ側にとってそれは「降伏」に等しいものに映るだろう。
だが、最終的にテヘランは外交路線を選ぶ可能性が高い。それは体制を維持したいという動機だけでなく、国民感情とも一致する。また、外交を選ぶことでトランプ政権やイスラエルに対する時間的な優位を保つこともできる。
ただし、外交交渉の過程でイランが核拡散防止条約からの離脱や核実験の実施に踏み切れば、これは新たな危機を招く。そしてそれは、アメリカを再び中東戦線に引き込む可能性を秘めている。