公益財団法人・笹川平和財団と台湾のシンクタンク・遠景基金会が共催する「日台対話2025」が、6月24日に開催された。会議終了後、両主催者は東京・海運クラブで記者会見を行い、当日の議論内容を公表した。主催側によれば、今年の対話は中国が2027年に台湾への武力行使に踏み切る可能性を主軸に据え、日台双方の軍事および経済安全保障における対応方針について、踏み込んだ意見交換がなされたという。なお、両シンクタンクは本年11月に台北で「日米台戦略シミュレーション演習」の開催を予定しており、今回の対話で共有された問題意識も、そのシナリオ設計に反映される見通しである。
記者会見では、笹川平和財団戦略学習部長の山本氏が司会を務めた。山本氏によれば、「日台対話」は2010年代から継続的に行われており、毎年、日台の外交・国防・経済分野の専門家を招き、相互訪問と議論を重ねてきた。今年の会議では、「全体情勢」「軍事安全保障」「経済安全保障」の三つのテーマに沿って進行された。参加者は合意形成や解決策の提示を目的とはせず、各テーマに対する認識の共有と立場の相互理解に主眼が置かれた。
また、笹川平和財団常務理事で元国家安全保障局次長の兼原信克氏は、これまで米国が構築してきたインド太平洋地域の安全保障体制は二国間同盟を基軸としており、同盟国間の横の連携が相対的に不足しているとの認識を示した。
日台行動の時機に関する議論 兼原信克氏:米軍動員と日本の巻き込まれ状況が鍵
兼原信克氏は、今回台湾の安全保障専門家と直接意見を交わす機会を得たことは、大きな意義があると述べた。記者からの質問に対し、同氏は「日本の台湾海峡における役割は、確かに日米安全保障体制の枠組みに制約されている」と認めつつも、現代の複合的な戦争様態に備えるためには、「守るべき価値」や「国家としてのレジリエンス(回復力)」を日本社会全体で継続的に強化していく必要があると強調した。
「我々は情勢をエスカレートさせる側ではないが、備えを欠くことは許されない」と述べ、さらに台湾側が重視しているのは「日本がいつ行動に出るのか」という点である一方、日本の対応は「米軍の動員と、日本自身が影響を受けるという前提のもとに成り立っている」との見解を改めて示した。
中国の国連決議操作 賴怡忠氏:これは法律戦だ
台湾のシンクタンク・遠景基金会の賴怡忠執行長は、記者会見の中で、今回の「日台対話」では政治・経済・安全保障といった多岐にわたるテーマが取り上げられたことを明らかにした。特に、台湾海峡情勢が一層緊迫化する中で、日台双方が新たな時代の課題にどう向き合うかが、議論の中心となったという。
賴氏はさらに、今回参加した日本側の関係者が、台湾が中国の「法律戦」に対して極めて敏感である点に強い関心を示したことにも言及した。中でも、近年中国が「台湾は中国の一部」との主張の根拠として頻繁に引用する国連総会決議第2758号に対し、日本のメディアや政策議論では比較的静かな反応にとどまっていると指摘した。
「これは単なる法的な問題ではなく、まさに『法律戦』であり、国際社会におけるイメージ形成にも深く関わる」と、賴氏は警鐘を鳴らした。

台湾のシンクタンク・遠景基金会の賴怡忠執行長は、今回の「日台対話」について、政治・経済・安全保障など多岐にわたる議題が取り上げられたと説明した。特に台湾海峡情勢が緊張を増す中、日台双方が新時代の課題にどう対応していくかが、議論の中心となったという。(写真/黃信維撮影)
陳玉潔氏:中国の経済力活用で台湾の国際参加を封鎖
中央研究院法律学研究所の陳玉潔副研究員は、記者会見の終盤において補足発言を行い、中国による台湾への外交的圧力は近年、従来の二国間関係にとどまらず、経済力を背景にグローバル・サウス諸国への影響力拡大を通じて、台湾の国際的な参与を一層困難にしていると指摘した。
陳氏は、中国が経済的影響力を駆使して発展途上国との関係を深めることで、台湾の外交的空間を封じ込め、国際機関への参加をより制限していると述べた。その上で、日本、米国、その他の台湾友好国が台湾への支持を表明する際には、より明確な立場を示し、台湾の国際的支援ネットワークを強化すべきであると強調した。
「台湾が孤立すれば、それは安全保障上の脅威にもつながる」として、国際社会に対し、台湾の孤立を看過すべきではないとの認識を示した。
日本学者の罷免案関心を暴露 陳唐山:明確に中国の潜在的脅威を認識
遠景基金会の董事長である陳唐山氏は、会議終了後の取材に応じ、今回の「日台対話」は同基金会と日本の笹川平和財団の共催によって実現し、これまで長年にわたって続けられてきた日台間の相互訪問・交流の伝統を受け継ぐものであると説明した。
陳氏は、「我々はこれまで、台北と東京で交互に会議を開催し、日台関係や国際情勢について踏み込んだ議論を行ってきた」と述べた上で、今回東京で行われた会合では、トランプ米大統領が再び政権に復帰する可能性を念頭に置いた米国の政策転換が、アジア太平洋地域の安全保障に与える影響に焦点が当てられたことを明らかにした。
今回の会議では、「政治・経済・軍事」の三大テーマが設定されたが、「過去にも何度もこうした会議に出席してきたが、今回は明らかに緊張感が高く、歴史の転換点に差し掛かっているような感覚を覚えた」と語った。

遠景基金会の董事長、陳唐山は、北京は2027年までに台湾への武力行使の可能性をしばしば言及しているが、実際には「グレーゾーン戦争」や認知戦を通じて台湾社会に浸透する可能性が高いと指摘した。(写真/黃信維撮影)
陳唐山氏は、トランプ大統領の政策行動にはしばしば予測困難な側面があると分析する。たとえばイラン問題への対応では、一方で相手に降伏を促す発言を行いながら、他方で即座に軍を派遣するなど、その行動は読みにくい。しかし、だからこそ中国をはじめとする他国に対し、一定の抑止効果をもたらしていると指摘する。
中国の対台湾政策については、北京が2027年までに武力行使の可能性に言及しているものの、現実的には「グレーゾーン作戦」や認知戦を通じて、台湾社会への浸透を図る動きのほうがより深刻であるとの見解を示した。陳氏は「現在、台湾国内ではスパイ行為が横行し、国会での罷免動議などの混乱も、外部勢力の介入によって引き起こされている可能性がある」と警鐘を鳴らした。
また、今回の会議では、日本の専門家が自発的に台湾における最近の罷免事案に関心を寄せたことを明かし、中国による対台浸透工作への警戒感が高まっていることがうかがえると述べた。さらに、「今回の対話は従来とは異なり、日本側の学者が中国の潜在的な脅威に対する理解をより深めており、今後の日台協力の必要性を強く認識している」と強調した。
具体的な協力の在り方については、現在、台湾・米国・日本の間では複数の二国間関係が交錯しているものの、台湾と日本の間には正式な政治関係が存在せず、依然として民間交流にとどまっていると指摘した。陳氏は、国際情勢が大きく揺れ動く中、日台双方が今後も対話と協力の枠組みを深化させ、より具体的な連携モデルを構築していく必要があるとの考えを示した。
台日、軍演や避難計画についての議論はなし 武居智久氏:双方がシミュレーションの重要性を認識
メディアからの「台湾の米日合同演習への参加」や「日本人の台湾からの退避計画」が今回の日台対話の議題に含まれていたかという質問に対し、笹川平和財団の上級研究員で元海上幕僚長の武居智久氏は、今回の会議ではこの種の具体的な軍事協力や避難行動について、踏み込んだ議論は行われなかったと説明した。ただし、武居氏は、両者がシミュレーションの重要性については共通認識を持っていることを強調した。