「両岸は互いに隷属しない」賴清徳総統が緩和メッセージを修正?副総統の「現状維持」と「憲法擁護」発言との温度差が波紋

2025-06-25 13:05
副総統の蕭美琴氏が「ノルウェー国営放送」のインタビューを受け、「中華民国憲法を守る」ことに言及した。(総統府公式サイト)
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台湾・副総統の蕭美琴氏は最近、海外メディアのインタビューに応じ、台湾海峡をめぐる両岸関係について「中華民国憲法の擁護」と「現状維持」を掲げる姿勢を示した。両岸関係に詳しい専門家である淡江大学中国大陸研究所の名誉教授・趙春山氏は、これを両岸関係の緊張を和らげる重要なメッセージだと評価し、「驚きを感じた」と語っている。しかし、賴清徳総統はその後、「両国は互いに隷属しない」と改めて強調し、蕭氏が発した緩和のメッセージを「修正」するかたちとなった。総統と副総統の立場の違いが表面化するのは極めて異例である。

蕭氏はノルウェー国営放送(NRK)のインタビューで、「我々の憲政上の責務は台湾の人々によって与えられたものであり、それは台湾の憲法、すなわち中華民国憲法を守ることにある」と述べた。また「我々の立場は一貫して現状維持の支持である」とも語った。さらに、米国のポッドキャスト番組「Shawn Ryan Show」に出演した際にも、「現状維持は中国を含むすべての関係当事者にとって、現時点で最も利益にかなう選択肢だ」との認識を示した。

両岸の現状とは何か?

実際のところ、両岸関係における「現状」は、馬英九政権から蔡英文政権、そして現在の賴清德政権に至るまで、大きく変化してきた。馬政権期においては「中華民国憲法」の枠内で、「一つの中国」を認める「九二共識」によって中国大陸側を説得し、台湾側には「それぞれの解釈(各表)」で説明を行った。両岸政府は「互いに承認せず、互いに否定せず」という立場をとり、「統一せず、独立せず、武力行使せず」の原則のもとで関係を維持していた。その総仕上げとして、2015年には「馬習会」が実現し、馬氏と習氏はそれぞれ「台湾の指導者」「大陸の指導者」として会談に臨んだ。

2016年に就任した蔡英文総統も、当初は「現状維持」を希望していた。彼女は「九二共識」を明確に受け入れはしなかったものの、「中華民国憲法」と「両岸人民関係条例」に基づいて両岸問題を処理する姿勢を示していた。厳密に言えば、当時の両岸関係の「現状」は馬政権期と大きくは乖離しておらず、最大の違いは蔡氏が「九二共識」を口にするかどうかにあった。

しかし、2020年に蔡氏が2期目に入ると状況は一変した。選挙期間中には九二共識を全面的に否定し、さらに2021年の国慶節演説では「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と明言したことで、両岸の「現状」はそれまでの「互いに承認せず、互いに否定せず」という曖昧な立場から、「二国関係」へと明確に方向転換するに至った。 (関連記事: 台海解読》トランプが「台湾売り第一弾」発砲?台大教授が断言「統一」は中国台湾両岸指す、台湾の運命審判が間もなく降臨か? 関連記事をもっと読む

2015年馬習会、馬英九、習近平。(林瑞慶撮影)
馬政権期の両岸関係における現状は、「九二共識」を基礎としたものであり、その最終的な成果として、2015年に馬英九氏と習近平氏の会談が実現した。(資料写真、林瑞慶撮影)

蕭美琴氏は中国側から「台湾独立の頑固分子」と位置づけられているものの、今回、2つの海外メディアのインタビューにおいて「中華民国憲法」と「現状維持」に言及したことは注目に値する。憲法の枠組みを前提としたこの発言は、馬英九政権期から蔡英文総統の第1期にかけての「現状」と重なる印象を与え、両岸関係の緊張緩和に向けた議論の余地を残したかたちとなった。