中東地域における緊張が23日に急激に高まり、米軍がイランの重要な核施設を直接空襲した後、イランは中東最大の米軍基地であるカタールのウデイド空軍基地(Al Udeid Air Base)に多数のミサイルを発射した。一方、イスラエルは同日、イランの首都テヘランに対し大規模な空襲を行い、地域全体が戦争に巻き込まれる恐れが広がった。
イランによるミサイル攻撃は、中東で全面戦争が勃発するとの懸念を国際社会に広げたが、『ニューヨーク・タイムズ』は、テヘランが情勢の悪化を回避する「出口」を模索している可能性があると報じた。イラン当局者によれば、攻撃に先立ち、被害と死傷者を最小限に抑えるため、事前に襲撃の情報を通知していたという。23日に撮影された最新の衛星画像では、イランのミサイル攻撃前、カタールのウデイド空軍基地の滑走路に航空機はほとんど確認されなかったが、13日にイスラエルがイランへの空爆を開始する以前の6月初旬には、滑走路に多数の軍用機が駐機していた。
イラン政府高官3人の証言によると、テヘランは攻撃開始前に秘密ルートを通じて米国側に「事前通告」を行い、攻撃が差し迫っていることを明確に伝えていたという。この行動は、米軍側の死傷者を最小限にとどめると同時に、イランが米国の攻撃に断固とした姿勢で応じる構えを見せつつも、事態をエスカレートさせず、制御された対応であることを国際社会に示す狙いがあったとされる。全面戦争の勃発を避けつつ、国内外における威信の維持を図るための、緻密に計算された行動とみられる。 (関連記事: アメリカ、イランと開戦! B-2爆撃機が6発の『バンカーバスター』を投下、トランプ氏「フォルドゥはもう存在しない」 | 関連記事をもっと読む )

『ニューヨーク・タイムズ』は、イランによるこのような「事前警告型の報復」は今回が初めてではないと指摘している。2020年、米国がイラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の司令官カセム・ソレイマニ氏を暗殺した際にも、イランはイラク国内の米軍基地を攻撃する前に同様の事前通告を行っていた。米国防総省はその後、ウデイド空軍基地に配備されていたパトリオットミサイルや他の防空システムが、飛来するミサイルの迎撃に成功したと発表し、基地に駐留する1万人以上の米軍および同盟軍に死傷者は出なかったと明らかにしている。ただし『ニューヨーク・タイムズ』は、今回の攻撃について、実際の被害よりも象徴的な意味合いの方がはるかに大きいとの見方を示している。
ニュース用語解説:ウデイド空軍基地(Al Udeid Air Base)
カタールの首都ドーハから南西約32kmに位置するこの基地は、米国中央司令部(CENTCOM)の前進指揮所であり、中東地域での米軍の最重要戦略拠点である。基地は中東で最も長い滑走路の一つを有し、B-52戦略爆撃機を含む各種大型軍用機の離着陸が可能。また、ペルシャ湾、アフガニスタン、イラクなどでの米軍の軍事作戦における中核的な後方支援・指揮センターでもある。現在、上万名の米軍が駐留しており、イランにとって高価値標的となっている。