トランプ米大統領の政権発足から100日を迎え、外交政策を強硬に推し進める中、地政学的緊張が緩和される兆しは見られない。こうした状況下で、日本の中谷元防衛大臣が最近提唱した「ワンシアター(一つの戦域)」構想が注目を集めている。陸上自衛隊の元陸将(三つ星)である小川清史氏は、5月上旬に台湾の淡江大学の招きでオンライン英語講演を行う予定であり、その中で日本の最新安全保障政策を解説する。講演で「ワンシアター(一つの戦域)」構想に言及するかどうかが焦点となっている。
この「ワンシアター(一つの戦域)」構想は、中谷防衛大臣が3月末に米国のピート・ヘグセス国防長官との会談で初めて提案したものである。『朝日新聞』の報道によると、この構想は東シナ海、南シナ海、朝鮮半島周辺を一体的な作戦空間と見なし、日米および同盟国が共同防衛体制を強化し、中国の拡張に対抗する広域戦略的連携の構築を目指すものだという。ヘグセス長官はこの構想に強く支持を表明し、日本の石破茂首相との会談でも、日米同盟の深化の必要性を改めて強調した。
Productive meetings with Defense Minister Nakatani Gen today. Japan is an indispensable ally, and together, we strengthen our commitment to peace through strength in the Indo-Pacific. Stronger, united, and ready.pic.twitter.com/UdGT3oD9sN
— Secretary of Defense Pete Hegseth (@SecDef)March 30, 2025
学術界もこの構想の戦略的意味合いに注目し始めている。慶應義塾大学の安全保障専門家・神保謙氏は、「戦域」という用語は大規模な軍事作戦を含む広域空間を意味し、防衛戦略再編の核心的概念であると分析。現時点で日本は自衛隊の行動範囲を明確に定義していないが、「ワンシアター(一つの戦域)」構想は、米中対立の中で日本がより積極的な前線の役割を果たす姿勢を示唆するものだと指摘している。
なお、「ワンシアター(一つの戦域)」構想は新しいものではない。2024年5月、小川清史元陸将は「救国シンクタンク」の電子報に寄稿し、日本と密接な関係を有する国、たとえば台湾が武力攻撃を受けた場合、「存立危機事態」として日本の集団的自衛権の行使を正当化し、米軍との共同作戦に発展する可能性があると主張。自衛隊が新たに統合作戦司令部を設置したのも、米軍との指揮調整能力を強化し、「ワンシアター(一つの戦域)」構想の戦略的要請に応えるためだと強調した。
また、小川氏は共著書『台湾・尖閣を守る「日米台連携メカニズム」の構築』の中で、中国による台湾および尖閣諸島への軍事的威嚇が日増しに強まっていると指摘。台湾有事と尖閣有事は実質的に密接に連動しており、台湾と日本は「運命共同体」であると述べている。そして、日米台三者による安全保障協力の推進が、中国の地域的拡張への対応として必要不可欠であると呼びかけた。
小川氏は5月7日に淡江大学で行うオンライン英語講演において、日本の安全保障政策の最新動向について説明する予定で、「ワンシアター(一つの戦域)」構想や日台の安全保障協力が講演の主な焦点になるとみられている。

一方、日台協力の最新動向として、4月28日には日本の前経済安全保障担当大臣・高市早苗氏が台湾の頼清徳総統を表敬訪問し、中国の海洋的覇権拡大に対抗するため、日台が防衛、経済安全保障、民主的価値の三分野でより緊密に協力していく方針を確認した。高市氏は、台湾が半導体分野で世界をリードしており、日本は製造工程に強みを持つと述べ、日台の両者は世界にとって不可欠な存在であると指摘。支援と協力を通じて交流をさらに深め、強靭かつ自律的なサプライチェーン体制の構築を日台共同で進めていくべきだと強調した。 (関連記事: 松田邦紀前駐ウクライナ大使、台湾に「領土防衛隊モデルの整備」提言─ウクライナ戦争から東アジアに警鐘 | 関連記事をもっと読む )
編集:梅木奈実
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