「関税で米国産業は復活せず」千葉大・伊藤教授が警鐘、日本の対米戦略を提言

外国特派員協会(FPCJ)は18日、千葉大・大学院社会科学研究院の伊藤恵子教授を招き、「トランプ関税にどう対処するか」をテーマにオンラインブリーフィングを開催した。(出典:公益財団法人 フォーリン・プレスセンター)
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外国特派員協会(FPCJ)は18日、千葉大学大学院社会科学研究院の伊藤恵子教授を招き、「トランプ関税にどう対処するか」をテーマにオンラインブリーフィングを開催した。経済政策を専門とする伊藤教授が、日本企業や経済に与える影響と、日本がいかに備えるべきかについて見解を述べた。

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伊藤恵子教授は「トランプ関税にどう対処するか」をテーマにオンラインブリーフィングを行った。(画像出典:公益財団法人 フォーリン・プレスセンター

トランプ2.0の関税政策が世界経済に波紋

米国第2次トランプ政権の関税政策が世界経済を揺るがしている。トランプ大統領は今年2月、鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課すと表明。自動車、木材、半導体などへの関税拡大方針も示し、保護主義的通商政策への懸念が高まっている。

「トランプ1.0」検証:雇用増加せず、中国以外の輸入拡大

伊藤教授は「トランプ1.0」と呼ばれる2018~2019年の関税政策を検証。米中貿易は縮小し中国の輸出シェアは減少したが、米国の輸入総額は減らず、メキシコやベトナム、台湾など第三国からの輸入が拡大したと分析した。「米国の雇用は増えず、企業業績も悪化。株式市場は関税発表のたびに下落した」と述べ、関税政策の効果に疑問を呈した。

米国の追加関税コストは主に輸入企業や小売業者、最終的には消費者が負担していると指摘。研究を引用し「鉄鋼など一部を除き、関税はほぼ価格に転嫁され、輸入量減少を招いた」と述べた。

​日本企業への影響:円安で大企業は利益確保も中小企業に恩恵届かず

日本への影響については「対米輸出の約9割が関係会社間取引で、ドル建て取引が中心。為替レートが利益に直結する」と説明。円高局面では収益圧迫要因だが、現在の円安環境ではある程度の利益確保が可能とした。ただし「円安の恩恵は大企業に偏在し、中小企業には十分届いていない」と指摘。「部品価格の引き上げを正当に反映できるよう、取引構造の見直しも必要だ」と述べた。

「トランプ2.0」関税政策については「対象が多岐にわたり、各国の報復措置も予想される中、影響予測は困難」とし、世界的な景気減速や貿易縮小が日本経済に与える間接的影響に懸念を示した。

日本の対応策:研究開発投資強化とグローバル連携

伊藤教授は日本政府に対し「米国との交渉は不可欠だが、関税の論理に付き合いすぎるべきではない」と助言。「経済合理性に乏しい『対等関税』に巻き込まれないよう、自国の強みを磨くべき」と強調した。

さらに「日本側にも農産物高関税や自動車業界の検査不正など改善余地がある」と指摘。対応策として「研究開発・人的資本への投資強化」を挙げ、デジタル技術や人材への投資を通じた技術力向上と、輸出品の高度化・輸出先多様化の必要性を訴えた。

最後に「米国以外、特にグローバル・サウスとの連携深化、国際共同研究や技術協力の促進が長期的競争力につながる」と述べた。

このブリーフィングには中国・フランス・韓国・台湾・シンガポール・米国の記者が参加した。

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