トランプ米大統領が引き起こした関税戦争により、世界の金融市場はかつてない混乱に陥った。先週は株式市場の急落に加え、米国債、米ドルも同様に打撃を受け、投資家は米国資産から次々と資金を引き上げた。中には今回の米国債急落の背後に、中国や日本による報復的な売り圧力があると指摘する声もあったが、関連データを見る限り、どうやら事実とは異なるようだ。
世界の「無リスク金利」の再定義
激動の株式市場の混乱を経て、株式市場は先週後半にやや持ち直したものの、債券市場は依然として下落が止まらず、世界の資産価格の基準となる米10年債利回りはわずか5営業日で0.5ポイント急上昇し、4.49%に達した。これは「9.11事件」以来、20年以上ぶりとなる週次上昇幅である。
「これは非常に恐ろしい事態だ。我々は今、世界の無リスク金利を再定義している」とUBSグループのチーフストラテジスト、バヌ・バウェジャ氏は述べ、「無リスク金利が揺らげば、すべての市場に影響が及ぶ」と警鐘を鳴らした。
チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏も「市場の問題は米国の政策に対する信認の喪失にある。突如として打ち出された関税政策によりレバレッジ取引が機能しなくなり、買い手は場外へと流れた」と指摘する。
一部では、中国や日本などの大口投資家が保有資産を売却することでトランプ政権に報復し、米国の財政にプレッシャーをかけると同時に、関税政策の転換を迫っているとの憶測も流れた。また、ヘッジファンドが「爆発的損失(爆倉)」を被ったとの噂も飛び交っている。
米国債売りを引き起こした真の要因とは?
しかし、シティグループが最近発表したリサーチレポートによると、米連邦準備制度理事会(FRB)の信託口座における外国公式保有額のデータを分析した結果、4月2日から9日にかけて外国公式機関による米国債の保有額は30億ドル増加しており、これは外国人投資家による大規模な米国債売却が起きていないことを示唆している。
さらに、米国債市場で売りが加速していたにもかかわらず、先物価格のベーシス(裁定差)は明確な圧力の兆候を示していなかった。米10年債先物の純ベーシスは先週の乱高下の中でも比較的安定しており、2020年のパンデミック時に見られたような極端な変動はなかった。これは先物市場の価格決定メカニズムが正常に機能しており、投資家がパニックに陥っていないことを意味する。
また、今回の異常な値動きの中で、インフレ連動債(TIPS)の実質利回りが名目利回りよりも大きく下落しており、これは単に経済の基礎体力に対する不安が高まっているだけでなく、流動性の悪化に対する懸念も反映している。 (関連記事: 農林中金、米国債売却説を否定 「今は収益力再建が最優先」 | 関連記事をもっと読む )
これらの分析から、シティグループは、今回の米国債市場の混乱は外国投資家による売却ではなく、債券需要の減退に対する市場の懸念が引き起こした「買い手のストライキ(Buyer's strike)」の可能性が高いと結論づけている。これは、投資家が市場の先行きや政策の不透明性を理由に特定資産の購入を控える現象である。