民進党は2024年末から、台湾全土でのリコール運動の主導権を民間団体から徐々に取り戻した。その後、総統の頼清徳による「国家安全17条」で中国本土を「国外の敵対勢力」と定義し、空中戦の主軸とし、加えて台湾全土での講演活動による組織戦を展開。国民党はあらゆる議題や活動において押される展開となった。言うまでもなく、国民党による民進党議員のリコール署名活動では、死亡者の名前が多数含まれていたことから、各地の捜査機関が台湾全土の選挙管理委員会に資料を要求するに至り、最近では台北市で民進党の立法委員である呉思瑤と呉沛憶のリコール発起人が呼び出しを受けた。党関係者の一部は、「以前の党産清算は“家の没落”だったが、今回は全国で党職員が拘束・取調べを受けており、“家が滅び人が死ぬ”ような状況だ」と嘆いており、こうした全ての重圧が、実際には党主席の朱立倫に集中している。
4月以降、民進党では相次いで中国スパイ事件が発覚し、いずれも重要政府機関である総統府、国家安全会議、新北市党部などで発生した。さらに、米国による関税ショックも起こり、閣僚の卓栄泰は「よく寝てください」と発言したものの、米国は台湾に対して32%という高率の「対等関税」を発表し、株式市場は一時3,000ポイントの暴落を記録した。これら一連の事件により、国民党には一時的に呼吸の余地が与えられた。しかし、3月全体を覆っていた低迷ムードのなか、迫る党主席選挙に大きな変化が生じた。『風傳媒』の取材によると、台中市長の盧秀燕がすでに党主席選への出馬に同意したという。
朱立倫(中)が指揮する緑営大規模罷免への対応が弱すぎ、手中に収めかけていた国民党主席再選に影響を及ぼしている。(資料写真、国民党提供)
リコール運動における国民党の士気は極めて低調であり、盧秀燕が責任を担わなければ、将来の総統選挙への道にも影響が出る 実のところ、2024年の総統選後から、盧秀燕が党主席選に出馬するかどうかについて、党内では多くの非公式な議論があった。盧が出馬表明すると噂された時期は3月末から4月初めまで複数存在し、多くのアドバイスが盧の陣営に寄せられた。当時の論点は、盧秀燕自身が“御駕親征”する、すなわち自ら主席選に出馬すべきだというものであった。というのも、過去3回の総統選挙では、国民党の党主席と総統候補が別人であったため、両者の足並みが揃わず、惨敗が続いてきた。盧秀燕が本気で総統の座を狙うのであれば、党主席選への出馬は必要不可欠であり、さらに主席に就任すれば、その党のチームが将来の総統選に向けた選挙陣営となるため、国政課題に早期から備えることも急務とされた。
(関連記事:
舞台裏》台湾・国民党のリコール内戦!国民党支持者の怒りが爆発、朱立倫 vs 盧秀燕?党内対立激化へ
|
関連記事をもっと読む
)
もちろん、盧秀燕の出馬意欲が低かった当初、出馬を勧める者や朱立倫に反対する者たちは「代理人候補」に関する議論を多く展開していた。当時、名前が挙がっていたのは中廣元董事長の趙少康、立法院元院長の王金平、国民党元秘書長の李乾龍、台北市元市長の郝龍斌らであったが、いずれも出馬意欲がなかったり、朱立倫との選挙戦が苦戦必至と判断されたりしたため、時期尚早との見方もあり、最終的な決断を盧秀燕が下すのを皆が待っていた。
最近になって、盧秀燕がついに出馬に同意した。主な理由は、リコール運動における国民党の士気があまりに低いためである。中部では「5議席を譲る」という賭けの噂まで出ており、つまり国民党が5議席のリコールで補選に持ち込まれたら「引き分け」とされる始末である。党内ではすでに、今回のリコール運動の結果は惨敗になるとの予想が共有されており、盧秀燕がこれ以上責任を回避すれば、将来の総統選挙への道は極めて険しいものとなる。党内の圧力と期待の下で、盧秀燕の党主席出馬はすでに「趨勢」であり、避けられない選択肢となっている。ただし、今後は資金・人事・そして朱立倫をいかに「華麗に転身」させるかという3つの難関に直面することになる。
国民党のリコール戦は押されっぱなしで、盧秀燕の党主席選出馬の決断にも影響を与えた。(国民党提供)
盧秀燕の出馬に立ちはだかる三大難関 第一は資金調達 実は、元立法院長の王金平はある国民党立法委員に対し、主席選出馬に必要な条件について非公式に分析を行っており、まず第一に挙げられたのが「強力な資金調達力」であった。王によれば、4年間で少なくとも20億元(約93億円)の資金が必要であり、それは増えることはあっても減ることはないという。
国民党が野党に転落して以降、前主席の洪秀柱、呉敦義、江啟臣の時代に至るまで、党職員の解雇や党本部ビルの階数削減など、あらゆる手段で経費削減が図られてきた。党務にかかる基本的な支出は、かつての月額3000万元(約1億4000万円)から、現在では月額2000万元(約9300万円)を下回るまでに節約されたとされる。
ただし、国民党中央党部の賃貸契約が間もなく満了となる中、延長契約が必要となった場合、現在党産会の管理下にある中投公司との関係により、家賃は間違いなく引き上げられる見込みであり、結果的に党務費は月額2000万元前後に戻る可能性が高い。
仮に月額2000万元を年間通して維持する場合、年間で2.5億元(約11.6億円)が必要となり、国民党が毎年受け取る政党助成金の大半が基本経費で消費されることになる。さらに、マーケティングや広報活動のための予算も必要であり、たとえば今年開催された「努力進前:孫文先生逝去100周年記念展」には百万元単位の費用がかかっている。2025年には大規模なリコール運動および補欠選挙、2026年には地方選挙、そして直後には次期総統選も控えており、支出は雪だるま式に膨らむ一方だ。従って、20億元という額はむしろ保守的な見積もりにすぎない。
国民党の毎月の基本的な支出は約2,000万元にのぼり、選挙やその他の費用を加えると、盧秀燕にとって党主席選出馬で最初に頭を悩ませるのは資金問題である。(資料写真:柯承惠)
盧秀燕が直面する第二の問題 台北に政局を仕切る司令塔がいない 王金平はまた、代理の党主席を担う人物について、「国民党内の地方派閥に精通しており、調整・交渉能力を備えていることが必要不可欠だ」と述べていた。この考え方は、代理人を実質的に盧秀燕の「秘書長」として機能させるものである。かつて国民党が「大家族」だった時代、地方派閥同士の軋轢を調整するには、名声と年配の重鎮の介入が不可欠であり、例えば呉敦義主席時代の秘書長を務めた曾永權がその代表例である。
関係者によれば、盧秀燕陣営では党務の処理体制について2015年の朱立倫モデルを踏襲する意向があるという。すなわち、朱が新北市政を固守しつつ、党務は李四川秘書長に一任した形である。盧陣営においても、秘書長人選には地方調整能力を持つ人物を求めており、現在の国民党内には本省派の李乾龍、外省系軍閥の郝龍斌といった調整可能な人材が存在し、副主席と秘書長を兼任させる形での起用も視野に入っている。
ただし、盧秀燕陣営は洪秀柱主席時代の方式、すなわち各派閥ごとに適切な人材を副主席に任命し、経営と管理にあたらせ、秘書長には別の役割を持たせるという運営モデルを検討している模様である。
また、盧陣営は党主席の職を引き受けた場合、民進党が中央政府、台中市政、さらには司法面でも攻勢を強めてくると見ており、台中に本拠を置く盧秀燕では、即時に対応することが困難になる可能性を懸念している。そのため、台北にはメディア対応や空中戦に長けた人材が必要不可欠となる。
だが、過去の国民党の総統選においては、例えば馬英九が国家安全会議元秘書長の金溥聡を、朱立倫が宋自強や陳国君をそれぞれブレーンとして配し、議題設定やメディア戦略を担当させていた。現在の国民党には、このような「司令塔」が存在しておらず、そのため2024年の総統選では、侯友宜が再び金溥聡を呼び戻すこととなった。ましてや、盧秀燕陣営においてこのような人材は極めて希少であり、これが彼女にとって第二の大きな壁となっている。
国民党は選挙戦の司令塔となる人材が極めて不足しており、それが2024年総統選で再び金溥聡(写真)を起用する結果につながった。(資料写真:柯承惠)
盧秀燕にとって最大の難題 朱立倫に「華麗なる転身」をどう促すか 王金平が党主席の代理人について語った際、最後に挙げた条件は「私心がないこと」であった。盧秀燕が自ら出馬するのであれば、この条件は当てはまらない。だが、「無私」であるかどうかという点こそが、朱立倫に反対する派閥が盧に自ら立つよう求める最大の理由でもある。
とはいえ、盧秀燕が党主席に立候補する場合、現在だけでなく、2026年および2028年に向けても朱立倫の協力が不可欠となる。そのため、盧が出馬するのであれば、朱立倫に「華麗にポストを譲らせる」方法を見出すことが、最大かつ最も困難な課題となる。
では、朱立倫をいかにして党主席の座から「華麗に転身」させるか。関係者によれば、盧秀燕側はまず2026年の地方選挙を見据えており、台中市は当然ながら盧自身が責任を負う選挙区である。しかし、朱立倫はかつて桃園県長や新北市長を務めており、現職の桃園市長である張善政は朱の支援によって当選を果たした。また、台北市長の蔣萬安の陣営に属する陳国君、林奕華らも朱と深い関係がある。さらに重要なのは、新北市長の侯友宜が後継を指名する必要があることであり、たとえ台北市副市長の李四川を擁立する場合であっても、朱立倫の協力が必要不可欠となる。
加えて、朱立倫は党主席としての在任期間中、2022年の地方選挙で大勝を収めた。六大直轄市のうち四市を制し、22の県・市では苗栗と新竹市を含め計16の県市を確保した。2024年の総統選では最終的に敗北を喫したものの、鴻海創業者・郭台銘の出馬や「藍白合」交渉の決裂という逆風があった中で、総統選の得票数では2位を維持し、立法院では最大野党の地位を保った。これらの結果を踏まえると、朱の選挙戦略が決定的に失敗していたとは言えない。
たとえ盧秀燕(右から三人目)が党主席に当選したとしても、今後も朱立倫(右から四人目)の力を借りる必要があるため、彼に体面を保たせた形での転身を実現しなければならない。(資料写真:柯承惠)
盧秀燕、なおも「深く腰を据えている」 7月に正式表明か 盧秀燕自身に政局を一手に握る司令塔がいない現状では、全国選挙の経験と選挙チームを持つ人材は、党内には朱立倫しかいない。そのため、本当に主席選に出馬するのであれば、朱に面子を保たせたかたちでポジションを譲らせ、今後の協力体制を築く必要がある。