舞台裏》朱立倫氏のナチス発言に蒋万安氏が「不適切」と異論 台湾・国民党に動揺広がる

台北市長の蒋万安(左)は国民党主席の朱立倫(右)の「ヒトラー発言」は不適切と認識し、わざわざ台中に行き、朱の党首競争相手である盧秀燕と連携したことで注目を集めている。(資料写真、劉偉宏撮影)

台湾・国民党は、罷免団体を支援したり、民進党の議員や立法委員の罷免を自ら推進した際に、「死亡連署(故人の署名)」の問題が発生し、政治が司法の攻防の場となった。多くの政治記者は私下で、「北検(台北地方検察署)での取材が多く、司法記者に転向しそうだ」と冗談を言っている。罷免に関する司法の論争が混迷を極める中、国民党内部では、台北市長の蔣萬安が党主席の朱立倫のナチスに関する不適切な発言を批判した。さらに、党内で盧秀燕が党主席選に出馬しない場合、蔣萬安がその役割を担うことが期待されている中、蔣は台中市を訪れ、2028年の総統選で国民党を代表する可能性がある市長の盧秀燕と連携し、「姉が行動すれば、弟が助ける」と発言した。国民党内の権力闘争は、大規模な罷免運動に劣らず激しい。

台南、新北、宜蘭、台中、台北などの国民党地方支部は捜索を受け、台北市党部の前主委である黃呂錦茹、基隆市党部主委の吳國勝、基隆市民政局の前局長である張淵翔が拘束された。さらに、次のステップとして国民党中央部の捜索が予定されているとの情報もある。党主席の朱立倫はこれを受けて民進党の独裁を厳しく批判し、5月7日の中常会ではさらに、総統の賴清德が「ヒトラーのようなことをしている」と非難した。この発言は、ドイツ在台協会からの批判を招き、台湾がナチスの暴政と比較されることはあり得ないとされた。イスラエル代表処も失望と懸念を表明し、民進党側は「国民党と朱立倫は、今や西太后が八カ国連合軍と戦った時代を再現しようとしているのか」と嘲笑した。朱立倫はなぜ火に油を注ぐような発言をしたのか? そして、なぜ蔣萬安からも批判されることになったのか。

ヒトラー(Adolf Hitler)、1931年12月5日、ミュンヘン(AP)
朱立倫は総統賴清德をヒトラーに例え、ヨーロッパ各国から批判を受けた。(資料写真、AP通信)

原稿に「ヒトラー」の記載なし 朱立倫氏の独断が国際的な波紋を呼ぶ

5月7日、朱立倫・国民党主席が「賴清德はヒトラーだ」と発言したことで波紋が広がったが、翌8日になってもその強硬な姿勢は変わらなかった。朱氏は「民主政治においてファシズムは現れることがあるが、ファシズムは最終的に民主政治を終わらせる」と述べ、軟化する様子は見られなかった。このことから、党内では「一体どの幕僚が朱氏にこのような発言を進言したのか。」と疑問の声が上がった。中道的で国際情勢にも理解があるとされていた朱氏の従来のイメージとは異なる姿勢だったためである。

しかし、風傳媒の取材によれば、実際には朱氏が7日に行った発言の草稿には「独裁者」や「ヒトラー」といった言葉は含まれておらず、全て朱氏が自らの判断で加えたものであったという。

5月3日、国内メディアが《ロイター》の報道を引用し、賴清德総統が5月8日に台北で外国の外交官や各国の要人を招いて、第二次世界大戦欧州戦勝80周年記念演説を行うと伝えた。演説の中心テーマは「侵略者は必ず敗北する」であり、台湾が権威主義的な侵略に断固として対抗する姿勢を示すものとされた。 (関連記事: 吳典蓉コラム:大罷免はなぜ大民主ではないのか 関連記事をもっと読む

風傳媒の情報によると、当時、朱立倫氏の幕僚は彼に対してFacebook投稿用の原稿を用意していた。その内容は、「賴清德は独裁者だ」と主張し、賴氏の「中国は侵略者」という間接的なメッセージに対抗する構図を作る狙いがあったという。