海外赴任は割に合わない?EY調査で明らかになった待遇ギャップ

2025-05-31 14:38
調査によると、海外赴任者の給与体系は「購買力補償方式」を採用する企業が約74%にのぼった(写真/引用Unsplash)
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EY税理士法人は9日、国内企業を対象とした「第8回EYモビリティサーベイ」の結果を発表した。この調査は2025年1月から3月にかけて、国内の上場・非上場企業245社を対象に実施されたもので、海外赴任者に対する給与・手当、規定整備の現状、そして労災保険制度の加入状況について実態が明らかになっている。

你是否曾經坐在飛機靠窗的位置,望著窗外雲海時,發現窗戶下方有個小小的洞?(示意圖/取自unsplash)調査によると、海外赴任者の給与体系は「購買力補償方式」を採用する企業が約74%にのぼった(写真/引用Unsplash)

給与体系は「購買力補償方式」が主流

調査によると、海外赴任者の給与体系については、「購買力補償方式(赴任先でも本国と同等の購買力を維持する方式)」を採用している企業が全体の約74%を占めた。次いで「併用方式(本国給与に海外勤務手当を上乗せ)」が14%だった。現地水準に合わせた給与体系を採る企業はごく少数だったという。

海外勤務手当と単身赴任手当は、課長・一般スタッフクラスで3年前の調査に比べて約10%上昇したものの、物価や為替変動への対応としては不十分との見方もある。例えば、課長クラスの海外勤務手当の中央値は14万2,000円(前回13万5,000円)、単身赴任手当も9万円から10万円に増額されたものの、急速に進む現地のインフレに見合う水準かは疑問が残る。

EY税理士法人パートナーの藤井恵氏は「ここ数年で海外物価は大幅に上昇したが、企業側の手当改定はそれに追いついていない」と指摘。「かつてのように『海外赴任すれば貯金がたまる』という時代は終わった」と語った。

ハードシップ手当は地域差が顕著

生活環境が厳しい地域に赴任する社員に支給される「ハードシップ手当」については、ニューデリー(12万円)やジャカルタ(7万5,000円)が高く、北京(3万5,000円)などとの地域差が際立った。基準は外部コンサルティング会社の指標に依拠する企業が半数を超えるという。

制度改定の壁は「相場把握」

海外赴任者に関する社内規定の見直しにあたり、最も困難とされたのは「世間相場の把握」だった。特に給与や手当、福利厚生などを他社と比較する術が乏しいとの悩みが多く、専門家の活用を検討する企業も増加している。実際、回答企業の3分の1が過去3年で規定を見直している。

労災制度への加入にも温度差

また、海外赴任者を対象とした労災特別加入制度について、「全員加入している」と回答した企業が6割近くを占める一方、「加入していない」企業も2割近くあった。民間保険で代替するケースもあるが、「特に対応していない」とする企業が2割以上にのぼり、リスク管理のばらつきが浮き彫りになった。

人材のグローバル配置に向けた課題も

EYでは今後も調査を継続し、企業のグローバル人材戦略に役立つ情報提供を目指すとしている。藤井氏は「給与体系や手当の設定は、企業規模や業種よりも、その企業が海外赴任にどのような価値を置いているかに大きく左右される。多様化する国際環境に対応するには、制度の柔軟な見直しが必要だ」と述べた。

​編集:田中佳奈