チェコメディア《iROZHLAS》は、台湾の副総統・蕭美琴氏が2024年3月に当選者としてチェコを訪問した際、中国のプラハ大使館に所属する軍事外交官による尾行を受けたと報じた。記事によれば、尾行行為は車列への追突を引き起こす恐れがあり、チェコ軍情報局の報道官も事実を認めたという。蕭氏は6月28日に「中共による違法行為を恐れない」と表明し、米国連邦下院外交委員会および中国特別委員会も、29日(現地時間)にそれぞれ声明を発表。中国の行動を「露骨な政治的脅迫」だと非難した。一方で中国外交部の報道官・郭嘉昆氏は、「台湾独立勢力による挑発に利用されるべきではない」と述べ、関係各方面に冷静な対応を呼びかけた。
外交慣例に反する「15か月後の暴露」
この事件は実際に起こってから15か月後に報じられた。関係者の間では、中国による外国要人への妨害や威嚇を「ブラックオペレーション(闇の作戦)」と捉える見方があるが、安全保障学会のシニア・フェロー・張競氏は今回の報道に疑問を投げかけている。張氏は「チェコ外務省が中国側に抗議を送らず、直接メディアを通じて情報を流すのは外交慣例に反する。過剰な演出だ」と指摘した。
また、フランス・リヨン第三大学の漢文学科教授ジョン・D・ソロモン氏は、自身のFacebookで「この報道はメディアが製造したフェイクニュースの可能性が高い」と書き込み、「完全に根拠のない指摘と憶測」に基づいていると主張した。ソロモン氏によれば、事件で唯一確認できる事実は「チェコの運転手が蕭氏の車列を追跡した」という1点にすぎず、その他は証拠のない推論だという。
ソロモン氏は、チェコ軍情報局が「中国による示威行為があった」と述べる一方、具体的な「衝突計画」については一切の確認がなく、チェコの公共放送ネットメディア《iROZHLAS》が自らの解釈で編集したものだと指摘した。中国大使館の関係者が蕭氏の動向を探る目的で追跡した可能性はあるが、信号無視をしたという程度にとどまり、「残りはすべて憶測と見なすべき」と述べた。

NATOの反中配置とチェコの役割
さらに、ソロモン氏は「チェコはNATOの反中拠点(仮面要塞)としてますます積極的な役割を担っている」と述べた。その例として、プラハに拠点を置く非政府系シンクタンク「CHOICE(中国および中東欧観察組織)」を挙げた。同団体はNATO、米国国家民主基金会(NED)、オープン・ソサエティ財団(OSF)などの「政権転覆系機関」から支援を受けており、民間知識を通じた軍事化された安全保障ネットワークの一端を担っていると分析した。
CHOICEの最新レポートでは、中国が欧州の学術機関や個人に対して行っている「潜入活動」を非難しているが、ソロモン氏はその論拠がオーストラリアの有名シンクタンク「戦略政策研究所(ASPI)」に大きく依存しており、同研究所は米国の軍需産業との結びつきが強いと指摘。CHOICEが「独立系シンクタンク」としての信頼性に欠けると語った。
またソロモン氏は、CHOICEの報告が焦点を当てているのは、中国の電動車や太陽光パネルなどのグリーン技術であり、それらをEU市場から排除しようとする意図があるとした。これは欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が米国の要請により中国製品に対する関税措置を進めた動きとも重なる。ギリシャの元財務相ヤニス・バルファキス氏も、この政策が「EUに転換の余地を与えず、経済と環境の双方に最悪の結果をもたらす」と批判している。
最後にソロモン氏は《風傳媒》に対し、「チェコなど東欧諸国の台湾との関係は、変化する国際環境の中で極めて重要だが、十分に注目されていない」と述べ、EU内の政治的変化を背景とした安全保障の軍事化と、それによる台湾への波及に警戒を促した。
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