米国上院の共和党議員が週末、トランプ大統領の推進する重要法案の成立に向けて奔走するなか、起業家のイーロン・マスク氏が6月28日の自身の誕生日にあわせて、SNS上でこの法案に強い批判を展開した。マスク氏は、トランプ氏が「大きく美しい」と称えたこの法案について、「数百万の雇用を破壊し、国家に甚大な戦略的損害を与える」と非難した。
マスク氏は最近まで「政府効率部(DOGE)」の責任者としてトランプ政権に関わっており、その後退任したばかりだった。今回の発言により、彼と現政権との対立が再燃し、共和党上院指導部の困難な立法プロセスに新たな不確定要素が加わる形となった
失望から怒りへ マスク氏の批判が再燃
マスク氏は28日、自身のSNS「X(旧Twitter)」で「上院が進めている最新の法案草案は、米国の数百万の雇用を破壊し、国家に甚大な戦略的損害をもたらす」と投稿。上院がこの約千ページに及ぶ法案の手続き審議を進めていたタイミングでの発言だった。
さらにマスク氏は「この法案は過去の産業には補助を与える一方で、未来の産業には大きなダメージを与える」「共和党にとっては政治的自殺だ」と強調した。
実はマスク氏は5月末、正式に退任する前にCBSの番組インタビューで、減税と支出削減を含むこの法案に対し「失望」を表明していた。
「正直なところ、この大規模な支出法案を見てがっかりした。予算赤字は減るどころか拡大している。これはDOGEチームの努力にとって打撃だ」と語り、「大きく(big)美しい(beautiful)法案は理想として理解できるが、それが実現可能かは疑わしい。個人的な見解だが」と述べていた。
政権離脱後、マスク氏の批判はさらに過激さを増し、法案を「政治的利益に満ちた(pork-filled)忌まわしい怪物」と呼んだ。さらに「賛成票を投じた議員は恥を知るべきだ。彼らは何が間違いか分かっているはずだ」と糾弾し、「米国民を裏切った議員は解任すべきだ」とまで語った。
蜜月から断裂へ トランプ氏との関係に暗雲
かつての側近からの容赦ない攻撃に、トランプ氏も反撃。「マスクには失望した」とコメントした。この応酬は急速にエスカレートし、マスク氏は証拠を提示せず、性犯罪者ジェフリー・エプスタイン氏関連の文書にトランプ氏の名が出ている可能性を示唆するという挑発的な投稿まで行った。
数か月前まで両者は極めて親しい関係にあったが、トランプ氏はスペースXが毎年NASAなどから数百億ドル規模の資金援助を受けていることを指摘し、「彼は多くの補助を受けている。それについて見直すことも検討すべきだ。我々にとっても、彼にとっても公平であることが前提だが」と6月6日の記者会見で発言した。
この一連の対立はその後、一時的に収束を見せた。マスク氏は自身の過激な発言に後悔をにじませ、トランプ氏も『ニューヨーク・ポスト』のインタビューで「こうしたことは起こりうる。彼を責めるつもりはない」と述べ、関係改善の兆しを見せていた。
しかし、今回のマスク氏による再度の激しい批判が、ようやく築かれた脆弱な関係に再びひびを入れるのかどうか、今後の展開に注目が集まっている。
編集:田中佳奈 (関連記事: ホワイトハウスを去ったマスク、火星移住の夢は実現可能か?宇宙船のテストで4度目の爆発、2026年の火星初航に影響か | 関連記事をもっと読む )
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