評論:賴清徳総統の「不純物を取り除く」発言に波紋 講演要旨から削除、政権の本音か

2025-06-27 11:40
台湾総統・賴清徳氏は最近、「団結十講」を展開し、24日に行われた第2講「団結」において、国家の力を団結させるためには、選挙や罷免を通じて「不純物を排除」する必要があると述べ、高度な議論を巻き起こした。(写真/総統府提供)
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台湾総統の頼清徳氏は「団結十講」を始動し、24日に開催された第2回目の講演で、「国家の力を結集するには、選挙やリコールを繰り返すことで“不純物を取り除く”必要がある」と断言し、大きな波紋を呼んだ。これを受けて総統府は火消しに奔走し、「過度な解釈は避けてほしい」と釈明、野党に対しても「自分たちのことだと思わなくてよい」と呼びかけた。しかし、総統府の公式サイトに掲載された講演要旨からは、「不純物を取り除く」という表現が突如として削除されていた。与党陣営が頼総統の発言を擁護すればするほど、この言葉こそが彼の「本音」であるとの印象が強まっている。

中国出身配偶者追放、「人心の洗浄」と「不純物の除去」の始まりか?

忘れてはならないのは、頼清徳氏が就任前から「人心を洗い清める」ことを重要課題の一つとして掲げていた点である。教育者を気取る頼氏は、しばしば歴史教師のように振る舞いながら、実際には静かに人々の意識に働きかける歴史の再解釈と虚構の構築を進めている。昨(2024)年の「1624年史観」や「祖国論」、さらには今(2025)年に欧州戦勝80周年と八田與一を同日に記念した演出、「団結十講」第1講での台湾史の語りなど、そのいずれもが、歴史を自身の「台湾独立」思想に奉仕させるための講義と化しており、驚嘆せざるを得ない。同時に、政治的権力を駆使して「人心を洗い清める」ことへの異常なまでの執着を改めて印象づけている。

行政院の公式サイトにおいて、漢民族を「その他の人口」と表記した件に始まり、頼清徳氏が自ら「不純物を取り除く」と発言した一連の言動により、頼政権が目指す方向性はますます明確になってきた。これらは、単に立法院での多数派奪還を目指す「大規模リコール」戦術にとどまらず、繰り返される内部の粛清を通じて、“純粋な『信頼』社会”を築き上げようとする意図すらにじませている。

その延長線上にあるのが、インフルエンサーとして活動していた中国出身配偶者の国外退去処分や、中国籍配偶者や中国在住台湾人の戸籍・身分を狙い撃ちにした一連の政策である。これらはまさに、「不純物を取り除く」という思想の実践的な第一歩にほかならない。

実際、頼政権による異論の排除に対しては、すでに社会の一部から「ファシズム化している」との批判が上がっている。だが、ドイツをはじめとする欧州各国の駐台機関が、ヒトラーやユダヤ人大虐殺を「民主主義的な価値観」とは相容れない警告の象徴として持ち出しつつ、間接的に頼政権の正当化に寄与する形となったことで、「人心の洗浄」や「不純物の排除」といった概念は、いつの間にか西側「友好陣営」からの黙認や支援を受けたかのような印象を与えている。結果として、台湾社会は歴史から教訓を汲み取り、内省する力を徐々に失いつつある。

5月8日賴清德總統紀念歐戰勝利80周年後,又出席八田與一技師逝世83週年追思紀念會。(總統府提供)
5月8日、頼清徳総統は欧州戦争勝利80周年を記念する式典に出席したのち、八田與一技師の逝去83周年追悼式にも参列した。(写真/総統府提供)

欧州戦勝を記念するも、ファシズムと軍国主義から教訓を学べず

とはいえ、「歴史教師」を自任する頼清徳氏の最大の問題は、歴史から教訓を得ることができず、むしろ過去の過ちを繰り返す恐れすらある点にある。アメリカの著名な精神科医・心理学者であるロバート・リフトン(Robert Lifton)は、その代表作『ナチスの医師たち――医学的殺人とジェノサイドの心理学』において、極端な生物医学思想と政治的全体主義が結びついたとき、それはまるでブラックホールのようなイデオロギーとなり、「劣等民族」と見なされた集団は「生きるに値しない命」と同義となり、社会全体が「世界の浄化の必要性」に対する確信を深めていくと警告している。