論評:トランプの戦略的後退 台湾・頼清徳政権は「戦備優先・交渉回避」を続けるのか

2025-12-24 17:20
米国のトランプ政権が対外戦略を大きく収縮させるなか、頼清徳政権は「備戦・非交渉」の路線をなお固守するのか。(イメージ画像)
米国のトランプ政権が対外戦略を大きく収縮させるなか、頼清徳政権は「備戦・非交渉」の路線をなお固守するのか。(イメージ画像)

米国のトランプ政権は、第2期に入って初となる『国家安全保障戦略』(NSS)を静かに公表した。文面では中国の軍事的脅威を意図的に弱め、米国務長官のマルコ・ルビオ氏は「国務省の役割は、中国政府との協力の余地を探ることだ」とまで踏み込んだ。政治学者のアンドリュー・ネイサン氏は「トランプはCIA(中央情報局)よりも習近平氏を信じている」と語っている。米国の対外戦略が大きく内向きに転じるなか、台湾の頼清徳政権はなお「備戦はするが交渉はしない」という路線を堅持するのだろうか。

米国の戦略収縮に揺らぐ同盟国

新版の『国家安全保障戦略』は冒頭で、トランプ2.0の外交姿勢を「実務的だが実用主義ではなく、現実的だが現実主義ではなく、原則的だが理想主義ではなく、強硬だがタカ派ではなく、抑制的だがハト派ではない」と定義する。しかし実態は、装いを変えた「アメリカ・ファースト」にほかならない。特定の思想に基づくものではなく、あくまで米国の利益を最優先する姿勢であり、外交政策が明確に「戦略的縮小」へ向かっていることを示している。

注目すべきは、トランプ第1期で中国とロシアを最大の脅威と位置づけていたのとは対照的に、今回は中露の地政学的挑戦を前面に出していない点だ。ロシアについては「戦略的安定関係の再構築」を掲げ、米国はNATOの前線に立つ「対抗者」ではなく、欧州とロシアの間の「調停者」を自任する姿勢を見せる。中国に対しても強硬な言葉遣いは残しつつ、焦点は軍事衝突の回避と経済・貿易の不均衡是正に移っている。同時に、日本や韓国に対しては防衛負担の増加を求め、米国自身の軍事的関与を軽減しようとする意図が透けて見える。

2025年12月22日、トランプが米軍最新兵器計画トランプ級艦船を発表した。(AP通信)
米国のトランプ政権は、台湾に対し「アメリカ・ファースト」の下で通行料や保護費の負担を求めているとされる。写真はトランプ氏が米軍の最新兵器計画を発表した場面。(AP通信)

台湾の価値は「半導体と航路」だけなのか

今回の戦略文書では、台湾について異例ともいえる6回の言及があり、「核心的な戦略戦区」と位置づけられている。半導体サプライチェーン、主要航路、地政学的要衝としての重要性が強調され、同盟国の軍事配備による抑止構想も盛り込まれた。しかし、その抑止の根拠は「台湾を守る」という価値判断ではない。台湾が中国軍の第二列島線進出を阻む要衝であり、東北アジアと東南アジアを結ぶ戦略通路を押さえ、世界の約3分の1の海上輸送に影響を与えるからだ。米紙ニューヨーク・タイムズが指摘したように、トランプ氏にとって台湾の残された価値は「半導体と航路」に集約されつつある。言い換えれば、米国は台湾を守る主体ではなく、「アメリカ・ファースト」の名の下で通行料や安全保障コストの負担を求める立場に変わりつつある。

この『国家安全保障戦略』について、戦略研究者の林中斌氏は「米国の戦略的大転換」だと読み解く。トランプ1.0の全面的な対中対抗から、トランプ2.0では米中の「戦争回避」と勢力均衡(balance of power)を軸に据え、北京とG2体制で国際秩序を共同管理する方向へと転じた、という見方だ。こうした転換は、副大統領のJ・D・ヴァンス氏、国防長官のピート・ヘグセス氏、国防次官のエルブリッジ・コルビー氏ら、トランプ政権の核心圏が主導する新たな戦略路線を映し出している。

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