「命を懸けて時間を稼いだ」台北駅無差別襲撃で市民犠牲 忠烈祠合祀を巡り議論

台北駅と中山駅で発生した無差別襲撃事件で、57歳の会社員・余家昶氏が真っ先に立ち上がり、現場で致命傷を負って死亡した。(写真/cheetah.333594@threads提供)
台北駅と中山駅で発生した無差別襲撃事件で、57歳の会社員・余家昶氏が真っ先に立ち上がり、現場で致命傷を負って死亡した。(写真/cheetah.333594@threads提供)

台北メトロ台北駅および中山駅周辺で19日に発生した無差別襲撃事件は、台湾社会に大きな衝撃を与えた。57歳の会社員・余家昶氏は、事件発生直後に真っ先に行動を起こし、容疑者がガソリン爆弾に火をつけ、さらなる攻撃を続けるのを阻止した。現場に貴重な時間をもたらした一方で、余氏自身は致命傷を負い、帰らぬ人となった。

事件後、余家昶氏の行為は「見義勇為(義を見てせざるは勇なきなり)」の典型例として各界から高く評価されている。重大な殉職者に準じた形での表彰や、忠烈祠への合祀の可否を含め、国家レベルで顕彰すべきかどうかが、社会の大きな関心事となっている。

蔣万安台北市長、顕彰に前向きな姿勢

蔣万安台北市長は先日、市政府として遺族を支援し、中央政府に対して褒揚令の申請を行う考えを示した。蔣市長は、余家昶氏の行動は高度な公共利益と自己犠牲の精神に合致すると述べ、忠烈祠への合祀資格を有するかどうかについても、今後検討を進めたいとの意向を表明した。

蔣市長の公の発言により、この事件は単なる刑事事件の枠を超え、制度的な評価や国家的栄誉の在り方を問う議論へと発展している。

劉世芳内政部長「手続きが重要」

これについて、劉世芳内政部長は22日、立法院での答弁前に取材に応じ、現時点では内政部に正式な申請は提出されていないと説明した。

劉氏はさらに、把握している情報として、余家昶氏の戸籍は桃園市にあると明らかにしたうえで、過去に「スコップ超人」と呼ばれた類似事案を処理した際の前例を挙げ、今後の手続きは地方政府からの申請を起点とし、中央政府との県市をまたぐ調整が必要になるとの見解を示した。

また、蔣万安市長の提案については「非常に賛同する」と明言し、このような議論自体が前向きな意味を持つと強調した。一方で、現行の法制度および行政手続きを踏まえ、慎重に対応する必要があるとも述べた。

立法院でも制度的検討が進行

注目すべき点として、同日、立法院内政委員会では、計画的かつ無差別的な攻撃事件をめぐり、内政部、衛生福利部、交通部、警政署、国家安全関連機関、法務部を招き、「社会治安維持に関する検討と改善」をテーマとした特別報告が行われた。

余家昶氏の犠牲については、複数の立法委員が制度として正面から向き合うべき重要なケースだと指摘しており、事件後にどのような形で制度的な評価と顕彰を行うかは、社会の安全保障力(レジリエンス)の一部と位置付けられている。

母親は嗚咽しながら語る「息子を誇りに思う」

公的な議論が続く一方で、遺族は計り知れない悲しみに直面している。80代後半の余家昶氏の母親は、悲報を知った後、感情を抑えきれず崩れ落ち、連日涙に暮れているという。

家族によれば、余家昶氏は幼い頃から正義感が強く、非常に孝行な性格だった。仕事がどれほど忙しくても時間を作って実家に戻り、母親の様子を気遣い、家族への配慮を欠かさなかったという。

白髪の親が黒髪の子を送るという耐え難い悲しみの中にありながらも、母親は必死に感情をこらえ、「あの子の行動は多くの人を救った。私は息子を誇りに思う」と語った。この言葉は、多くの人々の胸を強く打っている。

異変に気づいた時には、すでに遅く

家族は、事件当日、余家昶氏に何度も電話をかけたという。十数回に及んだが、いずれも応答はなく、次第に胸騒ぎを覚えた。警察から連絡を受け、最悪の結果を知ることとなった。

現在、家族は外部からの過度な注目を避け、静かに後事を処理し、心の整理をしたいと願っている。

近隣住民もまた、余家昶氏について「温厚で礼儀正しく、母親思いの人だった」と口をそろえる。地域社会においては目立たない存在ながら、信頼できる人物として知られていた。

そのため、彼が決定的な瞬間に立ち上がったことに対し、近隣住民は深い衝撃と悲しみを覚えると同時に、「彼ならそうするだろう」と理解する声も少なくないという。

編集:梅木奈実

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