なぜ中国の若者は軍隊を選ばなくなったのか 人民解放軍の兵士が直面する現実 長期駐屯、厳格統制、除隊後も見えない将来

2025-12-24 10:55
2025年11月12日、行進する中国人民解放軍の儀仗隊。(AP通信)

中国の兵士として生きることは、一体どのような感覚なのだろうか。寸分の狂いもない軍事パレード、天を突くようなスローガン、国家の栄光――。そうした煌びやかな舞台裏にある、兵士たちの泥臭い日常が語られることは滅多にない。

米紙『フォーリン・ポリシー』のジェームズ・パーマー副編集長は、16日に公開したレポートの中で、中国の一般兵士が直面する過酷な現実に光を当てた。長期にわたる駐屯、プライバシーを奪う厳格な統制、家族との疎遠、そして除隊後の不透明なキャリア。国際舞台で覇権を争う最強の軍隊が、なぜ国内の若者たちにとって「魅力のない選択肢」になりつつあるのだろうか。

中国社会が見る兵役

米国の軍事戦略において、中国人民解放軍(PLA)は「急速な近代化を遂げ、将来の戦場で正面衝突する恐れのある強大なライバル」として描かれる。しかし、こうしたマクロな視点からは、現場の兵士たちの等身大の生活は見えてこない。

『フォーリン・ポリシー』は、中国が名目上は徴兵制を維持しつつも、実態は「志願制」に近いと指摘する。軍が定員割れに苦しんでいるわけではないが、軍隊という場所が現代の若者の価値観から乖離しているのは事実だ。大学生には短期間の軍事訓練が義務付けられているものの、その内容は単調な行進や政治プロパガンダに終始しており、実際の軍務とは大きな隔たりがある。

歴史を紐解けば、中国社会の軍人に対する視線は常に冷ややかだった。古くから「良い鉄は釘にならず、良い男は兵士にならず(良鉄不打釘、好男不當兵)」という言葉があるように、武人は教養のない危険な存在として蔑まれてきた。20世紀前半の戦乱期には、制服を着た匪賊(ひぞく)同然に見なされることさえあった。

こうした軍人への負のイメージを刷新するため、中国共産党は自前の武力組織を確立した後、軍人の社会的イメージの改善に戦略的に着手した。ソ連のモデルを参考に、兵士を「規律正しい英雄」として描き出し、日中戦争や朝鮮戦争といった「愛国戦争」での活躍を通じて、軍人の地位を大きく引き上げたのである。1949年の建国以降、特に文化大革命の時代には、軍隊は農村の若者が運命を変えることができる数少ない、そして有力な手段となった。

しかし、こうした物語も改革開放以降は次第に魅力を失っていく。1979年以来、経済の現代化が進むにつれて、大学教育や都市部での生活が、より高い収入と社会的地位をもたらすようになった。人々がかつての配給制度や厳格な政治的規律に縛られなくなると、軍隊という組織は閉鎖的で時代遅れな場所として映るようになり、志願者を引きつける力は低下していった。 (関連記事: 米国、台湾に110億ドル超の軍事販売を承認 中国は強く反発 関連記事をもっと読む

1989年の天安門事件は、人民解放軍のイメージに再び甚大なダメージを与えた。これ以降、軍は「兵士を出身地の省には配属させない」という非公式な規定を設けている。将来、もし民衆による抗議活動が起きた際に、兵士が地元住民側に同情して寝返るのを防ぐための政治的措置だ。これと並行して、一人っ子政策も入隊をさらに困難なものにした。長期にわたる駐屯を強いられる一方で、兄弟姉妹がいない今の世代の兵士は、年老いた両親の介護を自分ひとりで背負わなければならないという過酷な現実に直面している。

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