李忠謙コラム:トランプ氏によって、2025年の米国は私たちにとって見知らぬ姿になった

アメリカのトランプ大統領。(AP通信)
アメリカのトランプ大統領。(AP通信)

2025年も間もなく終わろうとしている。多くの若者がクリスマスや年越しを迎える準備を進め、新しい年に期待を寄せている。その一方で、年の瀬の台湾社会を震撼させる事件が起きた。3年前、飲酒運転を理由に空軍を除隊させられた元志願兵の張文容疑者が、ガソリン爆弾や煙幕弾、刃物を用いて台北の地下鉄駅とその周辺で大規模な無差別襲撃を行い、社会全体が悲しみと恐怖、怒りに包まれた。

張文容疑者は逃走中に転落死し、犯行の動機を示す言葉を何も残していない。この事件が、2014年の鄭捷事件以降で最大規模の無差別殺傷事件となった理由はいまだ解明されていない。単独犯なのか共犯がいたのかも不明なままだ。ネット上では犯人への怒りや死刑制度を巡る議論が噴出したが、それ以上に憂慮すべきは、事件に政治的立場を無理やり貼り付ける言説だった。「青鳥(民進党の支持者を指す)」「草(民衆党の支持者を指す)だ」「名前からして中国籍配偶者の子ではないか」といった主張は少数派とはいえ、長いコメント欄の中で目を背けたくなる光景をつくり出していた。

政治的分極化や憎悪がネット空間で表出すること自体は、もはや驚くべきことではない。しかし台湾では、その分極化が憲法法廷にまで及び、法理に基づく議論よりも政治的立ち位置や宣伝が前面に出る状況が続いている。5人の大法官による自己正当化のもとで憲法法廷が再稼働したとはいえ、果たして今も「紛争を最終的に裁く最高機関」と言えるのだろうか。評議への出席を拒否した3人の大法官は、再開を支持する人々から見て、なお憲法とその価値を守る資格を持つのかという疑問は残る。

視線を国際情勢に転じると、「疑米論」や「反中論」といったレッテルが飛び交う中で、地政学の現実を冷静に見極めることは一層難しくなっている。米国在台協会(AIT)のサンドラ・オードカーク前台北事務所長は、健全な懐疑は民主主義に資するもので、単なる不信とは異なると述べてきた。しかし、この言論の自由を体現する考え方は、残念ながら台湾では主流になっていない。現実的な利害や法理よりも政治的立場が先行する状況は、2026年に向けて克服すべき大きな課題だ。

では、2025年の米国に対して、私たちは警戒心と疑念を強めるべきなのだろうか。残念ながら、多くの米国の専門家や研究者の見方を踏まえると、その答えは「イエス」に近い。トランプ政権が公表した2025年版「国家安全保障戦略」を見ると、米国は欧州の同盟国を競争相手とみなし、「退廃」「依存」「自由主義の過剰拡張」といった極めて厳しい言葉で欧州を批判している。台湾は民主と法治の先進地域を自任しているとはいえ欧州ではないが、専門家を驚かせたのは、この戦略文書がロシアと中国を「同格、あるいは友好国」と位置付けている点だった。 (関連記事: 中国最新鋭空母「福建艦」と遼寧艦が青島で並び停泊 衛星画像で確認、合同演習の可能性 関連記事をもっと読む

その背景にあるのは、「米国を再び偉大に(MAGA)」という世界観だろう。MAGAは、西側内部で「文明の内戦」が起きており、とりわけ欧州では「文明の消滅」が進行していると捉える。支持者の目には、真の脅威はロシアや中国の拡張主義ではなく、堕落した欧州同盟国の側にあると映っている。新たな国家安全保障戦略には、「有色人種が白人社会を静かに乗っ取っている」という暗い幻想すら見え隠れし、同盟関係を維持する前提として「白人社会」の存続が不可欠だという含意が読み取れる。

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