台湾政界で孤立する女性タレント──頼清徳氏の支援なき推薦の行方

2025-06-28 14:58
民進党の郭昱晴立法委員は、「民間による審査」を巡る論争や、夫が中国で「紅いお金」を稼いでいるとの野党からの疑惑により、世論の焦点となっている。(写真/劉偉宏撮影)
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民進党の立法委員である郭昱晴氏は、路上で一般人を公然と批判したとして注目を集めた。6月22日、郭氏がSNSに投稿した内容が発端だった。彼女は「不自然なライブ配信」をしている男性が公園にいたと指摘し、近くにいた子どもの撮影を懸念して「子どもの顔を撮らないでください」と注意したという。

しかし、当該の男性は「自撮りをしていただけだ」と反論し、郭氏の行動は「公衆の面前で一般人を批判した」と非難された。郭氏はすぐに投稿を削除し謝罪。不快にさせる意図は一切なかったとし、「子どもの安全に対する注意喚起は魔女狩りとは違う」と強調した。

騒動はその後、夫にまで波及した。国民党桃園市議の凌濤氏は、中国の工商登記資料をもとに、郭氏の夫・林宣廷氏が「研鷺懿生物科技(厦門)有限公司」の取締役であると指摘。2018年に福建省で設立されたこの企業をめぐり、彼が「紅いお金(中国資本)」を稼いでいるのではと疑念が広がった。

20250402-民進黨立委郭昱晴的國會辦公室2日門上掛有蔣介石及帶有「共匪不滅 誓不罷休」字眼的布條。(劉偉宏攝)
郭昱晴氏は国会事務所の扉に「共匪不滅、誓不罷休(共産党が滅びるまで、決して諦めない)」と書かれた横断幕を掲げ、いわゆる「紅いお金」問題に反論した。(写真/劉偉宏撮影)

夫の経歴にまで飛び火 在野からの疑念と追及

民進党主席の頼清徳氏に対しては「全党で紅い資金提供者をかばうのか」との批判も上がった。また、国民党側は郭氏の過去の微博(ウェイボー)投稿にも注目。2014年に無錫市で発生した乳児虐待事件に関連し、「第一手の情報を提供した」と感謝されていたことを挙げ、「当時から中国に浸透していたのではないか」との疑問も呈した。

これに対して郭氏は、微博は7~8年使用しておらず、ログイン方法すら忘れたと説明。アカウントはテレビショッピング番組のマネージャーの依頼で開設したものだったという。また、夫の林氏は既に4年前に該当企業を退任しており、出資も投資もしていないと釈明。取締役として名を連ねたのは、現地の法定要件を満たすためだったと説明した。

郭氏は、今回の一連の追及を「政治的人間狩り」と批判し、冷静な判断を求めた。林氏も声明を発表し、すべて事実無根の中傷だと強く反論。「名誉を守るため、必要であれば法的措置を取る」と述べた。

20250507-國民黨文傳會7日舉行「賴清德無視國內外經濟衝擊,火力全開葬送台湾經濟命脈」記者会,桃園市議員凌濤出席。(柯承惠攝)
国民党桃園市議の凌濤氏(写真)らは郭昱晴氏を攻撃し、彼女が中国を何度も「内地」と呼んだことを指摘した。(写真/柯承恵撮影)

同じ「紅いお金」疑惑でも対応に差──沈伯洋氏を擁護、郭昱晴氏には沈黙

しかし注目すべきは、同じく頼清徳氏が推薦した比例区の立法委員候補であるにもかかわらず、郭氏の「紅いお金」疑惑に対し、民進党内からほとんど擁護の声が上がっていない点が注目されている。党の立法院会派幹部である幹事長の呉思瑤氏や書記長の陳培瑜氏は、郭氏のSNS投稿に関する騒動には言及しつつも、夫の中国関連ビジネスについては公に支持を表明していない。

一方、同じく民進党の立法委員である沈伯洋氏については、香港メディアによって父・沈土城氏の会社が中国本土との間で多数の取引(取引額は1億元人民幣=約22億円)を行っていたと報じられたが、党内の対応はまったく異なっていた。民進党会派は大規模な記者会見を開き、今回の報道を「国共紅メディアによる認識工作の一環」と断じたうえで、「これは政権への攻撃であり、沈伯洋氏は最初のターゲットに過ぎない」と強く反発。今後は台湾の企業家やリコール団体なども標的となり得ると警鐘を鳴らした。

立委沈伯洋19日出席立法院外交國防委員會。(柯承惠攝)
民進党の沈伯洋立法委員も親族が「紅いお金」を稼いでいるという疑惑が浮上したが、党内は彼を強く支持している。(写真/柯承恵撮影)