台湾総統・頼清徳氏は最近、自身の演説シリーズ「国家の団結10講」で「中華民国」および「中華民国憲法」という言葉を繰り返し用いている。一方、副総統・蕭美琴氏もノルウェー国営放送のインタビューで「中華民国憲法を守る責任がある」と強調した。これに対し、かつて副総統・呂秀蓮氏の幕僚を務めた淡江大学の紀舜傑副教授は、風傳媒のインタビューで、「中華」という2文字を両岸交流の合言葉とし、「憲法中華、各自表述」への布石だと読み解いた。
中華民国アイデンティティに向き合う
賴頼氏は「国家の団結10講」第1講において、「私たちのパスポートに記載された国名は『中華民国』であり、憲法上の国名もまた『中華民国』である」と明言。国際社会においては「中華民国」「中華民国台湾」あるいは「台湾」と呼ばれていることにも触れた。また、第2講では、「中華民国アイデンティティ」と「台湾アイデンティティ」の双方を尊重し、理解し合い、受け入れるべきだと語った。
蕭氏もインタビューで「我々の憲政責任は台湾の人々から授かったものであり、それは台湾の憲法、すなわち中華民国憲法を守ること」と明言。ただし、台湾を「独立した社会」と形容しつつも、「独立国家」という表現は避けた。
紀舜傑氏は、民進党の新たな対中アプローチを「識時務者為俊傑」(時勢を読む者こそ賢人)と表現する。米国がイスラエルやイランとの関係に注力している今、台湾はむやみに波風を立てるべきではないという見方だ。「世界秩序が挑戦される時は、まず地域の衝突から始まる。だからこそ、今の台湾は安定を保つ姿勢を見せる必要がある」と指摘し、「善意」を示す発言が必要になると語った。

また紀氏は、頼清徳氏と蕭美琴氏の発言は方針として一致しており、「民進党が『中華民国』というフレームを積極的に用いるようになったこと自体が新たなサイン」だと分析。副総統のメディア発言に対して総統が直接関与することはないとしつつ、両者は互いの認識を共有しており、「深い打ち合わせはなくとも、方向性は一致している」と見ている。
民進党は「一中」を受け入れられない
紀氏は、蕭氏が台湾を「独立した社会」と述べつつ、「中華民国憲法を守る」と強調した点に注目している。また、総統・頼清徳氏が「中華民国」「中華民国台湾」「台湾」すべてを国の呼称として挙げたことから、両者の発言には新たな可能性を模索する姿勢がうかがえるという。

紀氏は「民進党が受け入れられないのは『一つの中国』が前提となる概念すべてであり、『中華民国憲法』そのものを否定するわけではない」と指摘。これまでの民進党は基本的に中華民国憲法に距離を置いてきたが、今は異なる局面にあるとみる。たとえば、民進党主席の謝長廷氏はかつて「憲法が一中を意味する限り、拒否するしかない」と述べていた。
その一方で、「中華」という二文字にはあいまいさがあり、頼氏と蕭氏がそれぞれの立場で柔軟に解釈できる新たな語調を探っている可能性もあるという。「誰もが適量を取って活用できる『合言葉』としての可能性を試しているのかもしれない」と語る。
紀氏は、頼氏が中国に対して完全に硬直した姿勢を取っているわけではないと分析する。その根拠のひとつが、前・海基会董事長の洪奇昌氏との関係だ。頼氏は1994年、洪氏の紹介によって民進党に入党している。洪氏はこれまで両岸での交流活動に関わっており、「頼氏自身も中国に対して完全に閉ざしているわけではなく、何らかの機会を模索している」と述べる。
