米国のトランプ大統領は6月23日(米東部時間)、イスラエルとイランが「恒久的な停戦」に合意すると発表した。しかし、それは実現可能なのだろうか。英誌『エコノミスト』の分析によれば、過去30年間に世界で宣言された停戦は2,203件に上り、そのうち約3分の1が破綻している。中東地域に限れば、停戦の成功率は世界平均を下回り、360件の停戦のうち半数以上が崩壊しているという。こうした状況から見ても、トランプ氏が描く和平の未来は不確実性を大きく孕んでいる。
6月13日、イスラエルはイランに対して奇襲攻撃を行い、防空システムを無力化したうえで、複数の核科学者および軍関係者を殺害し、ウラン濃縮施設にも深刻な損害を与えた。さらに米東部時間の21日、アメリカは「ミッドナイト・ハンマー」作戦を展開し、イランの核施設を攻撃。23日にはトランプ大統領が「全面的かつ徹底的な停戦に合意した」と発表し、NBCニュースのインタビューでは、この停戦が「恒久的に続くだろう」との自信を示した。
しかし、英誌『エコノミスト』はこの見通しに懐疑的な見方を示している。研究機関「Ceasefire Project」のデータによれば、1989年から2020年までに世界で宣言された停戦は2,203件にのぼり、そのうち約半数が有効に機能したか継続中である一方、約3分の1は破綻。残りは実際に履行されなかったか、情報不足で評価が困難とされている。
特に中東地域では、停戦の成功率が世界平均を下回る。これまでに確認された360件の停戦のうち、半数以上が失敗に終わっているという。こうした統計から見ても、トランプ氏が語る「恒久的停戦」の実現には、依然として多くの不確実性が残されている。

直近30年間の中東停戦の半数以上が破綻。
イスラエル・イラン停戦の歴史と効果
研究機関「Ceasefire Project」による中東地域の停戦に関する分析によれば、イランが関与した停戦は過去にただ一例のみである。それは2017年、イラン・ロシア・トルコの三カ国がシリア内戦に対応する形で締結した「シリア安全地帯合意」である。しかし、この合意は戦闘を終結させるには至らず、現在も紛争が続いていることから、実質的に破綻したと評価されている。
一方、イスラエルはこれまでに77件もの停戦に関与しており、その大半はハマスとの間で交わされたものである。これらの停戦のうち約30%は短期的な目標を達成したか、あるいは新たな合意に取って代わられたが、いずれも持続的な和平にはつながっていない。たとえば、2025年に発生したガザ衝突では、1月に合意された停戦がわずか2カ月後に破綻し、イスラエルのネタニヤフ首相が再びミサイル攻撃を開始した。このような繰り返される衝突は、中東における停戦の不安定さを改めて浮き彫りにしている。
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成功した停戦の3つの鍵
研究者らは報告の中で、停戦が成功するケースには三つの共通点が見られると指摘している。:
1.第一の要素は「政治的プロセス」である。すなわち衝突の根本原因に向き合うことが必要である。たとえば2023年、イスラエルが初めてガザ攻撃を一時停止した際は、ハマスによる人質解放を促す目的だったが、より広範な政治的課題についての交渉が行われなかったため、わずか1週間で戦闘が再開された。今回のイスラエル・イラン停戦も、核開発という根源的な対立要因に関する交渉抜きでは、持続性が疑問視される。
元駐イスラエル米国大使で中東安全保障の専門家であるダニエル・シャピロ氏は、アメリカは湾岸諸国や欧州諸国と連携し、イランのウラン濃縮を禁じる合意を目指すべきだと主張する。そのうえで「制裁を一定程度緩和し、体制安定を優先するイラン指導部が国民に成果を示せるようにするべきだ」と提言している。
2.第二の要素は「停戦監視体制」である。過去の統計によれば、外部の監視がなければ8割の停戦が1年以内に破綻している。独立した監視機関の設置は、当事者間の信頼構築を促進し、少なくとも双方が和平に取り組む姿勢を可視化する効果がある。今回のイスラエル・イラン停戦は米国とカタールの仲介によって実現したが、現時点でその具体的な合意内容は明らかにされていない。
元米国家情報副長官のジョナサン・パニコフ氏は、国際原子力機関(IAEA)の査察官をイランに派遣し、被害状況を評価させる必要があると述べた。そのうえで、将来的なイランの核開発に対応するための長期的な外交的枠組みを構築すべきだと指摘している。こうした取り組みがなければ、数カ月以内に米国またはイスラエルが再びイランを攻撃する可能性があるとの見方を示した。
3.第三の要素は「脆弱な空白期間(fragility window)」である。停戦は開始直後が最も破綻しやすい時期とされるが、初期100日間を死者25人未満で乗り切れば、持続的な和平に発展する可能性が高まるとされている。ところが、トランプ氏が停戦を発表してから数時間以内に、イスラエルはミサイルを発射し、イランの科学者1名を殺害。これに対しイランもイスラエルの住宅地を攻撃し、4人が死亡した。このような報復の応酬は、今回の停戦が依然として極めて脆弱である現実を浮き彫りにしている。
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イランの権力の中心が革命防衛隊へシフト、停戦は未確定
英誌『エコノミスト』は、停戦の持続性はイラン国内の権力構造の変化にも左右されると指摘している。一般的には、イランの好戦的かつ抑圧的な姿勢は宗教指導者が実権を握っているためと見なされがちだが、実際には事情はより複雑である。イスラエルとの対立が激化する中で、宗教指導層の権威は次第に「イラン革命防衛隊(IRGC)」の軍事指導者たちに移行している。IRGCは経済の再建や国民的誇りの回復を強く求めており、より強硬な姿勢をとる傾向があることから、今後のイラン外交や安全保障政策に大きな影響を与えるとみられる。
イスラエルとの衝突が始まった当初、86歳の最高指導者アリー・ハメネイ師は身の安全を優先して姿を見せず、実質的な決定権をIRGC主導の新たな「評議会(シュラ)」に委ねたとされる。この動きにより、イラン国内は事実上の戒厳状態に置かれ、たとえハメネイ師が表舞台に復帰したとしても、宗教的権威の完全な回復は困難とみられている。
この1年間、イラン政権内では軍、経済界、各派閥の間でIRGCの支配権を巡る内部抗争が続いてきた。強硬派が現実路線の派閥を排除する構図が強まり、2024年の前大統領エブラヒム・ライシ氏のヘリ墜落事件をめぐっても、各派が互いに責任を押し付け合っている。しかし今回の「12日間戦争」では、IRGCが団結して対外的な脅威に立ち向かい、国民から広範な支持を得た。この結果、イスラエルが期待していたイラン内部の対立激化というシナリオは実現しなかった。
イランの民族主義および核野心の持続的な高揚
英誌『エコノミスト』は、今回のイスラエル・イラン戦争がイラン革命防衛隊(IRGC)を一層大胆にさせ、国内の統制を強化しつつ、対イスラエル強硬路線を継続させる可能性があると指摘している。IRGCの指導部はイスラエルに停戦を迫るため、軍備の再構築と国家の抑止力の回復を目指しているという。
同時に、イランは依然として核兵器開発への野心を捨てていない。イラン原子力庁の責任者モハンマド・エスラミ氏は、核生産を今後も継続する方針を明言しており、国内の一部勢力は核兵器開発の加速を主張。すでに一部の高濃縮ウランが秘密施設に移送された可能性もある。イラン議会では、核不拡散条約(NPT)からの離脱法案が審議されており、国際原子力機関(IAEA)との協力を打ち切ることも視野に入れている。これは国連の監視を免れる意図とされる。
このような動きは、まさに悪循環である。イランが核計画を推進し続ければ、米国やイスラエルにとっての脅威は高まり、同時にイラン政権は「核兵器こそが最終的な防衛手段」として依存を強めていく。
元米国防総省戦略計画次官補代理のマーラ・カーリン氏は、イランの核開発を抑止する最も効果的な手段は「軍事力ではなく、2015年に締結された『包括的共同作業計画(JCPOA)』である」と述べている。しかし、トランプ政権は2018年に一方的にこの合意から離脱している。
『エコノミスト』は、イラン政権が軍事主導の体制へと傾き、核開発を進める現状においては、軍事手段よりも政治的・外交的な取り組みの方がはるかに重要だと警鐘を鳴らす。トランプ氏が描く「平和と繁栄の新時代」は、今なお遠く、視界は不透明なままである。