アメリカのトランプ大統領の外交姿勢が、再び国際社会を困惑させている。イランの核施設への攻撃を示唆しながら、次にはNATOを「米国に不利な組織ではない」と称賛し、さらにはロシアのプーチン大統領をウクライナ戦争の障害として批判。これらの発言は、従来の「アメリカ第一」や孤立主義的な姿勢とは明らかに異なる。トランプ氏は近年、カナダとの貿易交渉を突然取り下げ、イランへの制裁解除の可能性にも言及したが、直後に「解除しない」と言い直すなど、発言の一貫性に欠けるとの指摘がある。ホワイトハウスはこれを「戦略的曖昧さ」と説明し、交渉で最大の影響力を得るための意図的戦術だと強調するが、批評家の間では、これは一貫した理念の欠如による外交の混乱に過ぎないとの見方が強い。
一日に三度の変化:ピンボールのように揺れる外交
『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、トランプ氏の言動について「トランプらしくない」との見解を示す。かつて同氏は、NATOを「時代遅れ」と批判し、ロシアに対する発言を慎重に避けてきたが、最近では180度転換し、イラン核施設への軍事攻撃を支持し、NATOの価値を認め、プーチン氏への批判を明言した。だが、その変化も長続きしない。イラン制裁を「解除する」と述べた直後に「絶対解除しない」と明言し、カナダとの貿易交渉も突然打ち切った。トランプ氏の外交政策は、ハト派とタカ派の間を行き来する「ピンボール外交」とも形容される。彼は孤立主義的姿勢を見せる一方で、高リスクな軍事介入も辞さず、その予測不能さが同盟国や交渉相手国に警戒感を与えてきた。
ホワイトハウス報道官のキャロライン・リーヴィット氏は、トランプ氏の方針を「戦略的曖昧さの実践」と擁護し、「彼の発言は各国首脳に畏敬と警戒をもって受け止められている」と語る。同氏によれば、トランプ氏は受動的な世界観に立つのではなく、自ら世界を形成する主体であると考えており、「トランプ氏によって世界が変わったのであって、世界によってトランプ氏が変わったのではない」と強調する。とはいえ、このような方針が世界の安定に貢献するのか、それとも更なる混乱を招くのかは、依然として多くの専門家の間で議論が続いている。 (関連記事: トランプ氏の「恒久停戦」構想に懐疑の声 英誌「中東での成功率は3割未満」 | 関連記事をもっと読む )
ニュース用語辞典:戦略的曖昧さ(Strategic Ambiguity)
この外交戦略は、特定の懸案事項(例えば同盟国を防衛するために軍を派遣するかどうか)について、あえて明確な立場を示さないものだ。これにより、敵対国が不確実性から軽率な行動を控えるように促し、同時に自国の政策決定の余地を最大限に残すことを目的とする。アメリカは台湾問題に関して長年この戦略を採用してきたが、トランプ大統領の言動がこの範疇に当てはまるかどうかは、大きな議論を呼んでいる。
「トランプ主義」とは何か?
ホワイトハウスが主張する「戦略的曖昧さ」について、多くの分析家は懐疑的な見方を示している。米ワシントンDCのシンクタンク、スティムソン・センターに所属するクリストファー・プレブル氏は「トランプ氏の行動の中から一貫した戦略的な筋を見つけるのは非常に困難だ」と語る。たとえば、最近注目を集めたイラン問題では、トランプ氏は当初、米国の直接介入には慎重な姿勢を見せていたが、最終的には大規模な空爆を軍に許可し、イランの核施設に最大の損害を与えようとしていた。停戦を促した後も、核合意の再締結について矛盾する発言を繰り返している。NATOサミットでは「おそらく合意に署名する」と述べた直後に「それほど必要とは思わない」と発言し、周囲を混乱させた。