台湾軍による年次大規模実動演習「漢光41号」が、7月9日から18日まで10日間9夜にわたって実施される予定だ。これまでで最長となる演習期間のなかで、現代の脅威に対応するための非対称戦がどのように再現されるかが注目されている。
米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官は、かつて議会証言で「地獄の景色(hellscape)」という表現を用い、中国の侵攻を抑止する戦略を提示した。これは数千機の低コスト無人機、艦艇、潜水艦を同時展開し、敵の進軍を遅らせ、可能であれば一撃で撃破するという非対称戦の典型的な構想である。このアイデアは前任のジョン・アキリノ司令官によって最初に提唱されたものだ。
しかし、米国側がこの「地獄の景色」構想を急速に進めたいとする一方で、台湾側は依然として明確な装備計画や要求を提示できていない。中国が2027年までに台湾侵攻の能力を備えるとされる「デービッドソン・ウィンドウ」を意識し、米国と日本の2名の「影の将軍」が台湾を訪れ、演習の裏側で軍を支援・指導している。なお、彼らはすでに知られているロバート・エイブラムス退役大将とは別の人物だという。

中央研究院の李世強院長(左)が6月中旬、Auterion代表と17日に協力覚書に署名した。(写真/柯承恵撮影)
民主連携から米国製品の大量購入へ 変わる政権と防衛協力
今回の漢光演習では、計8項目の重要検証が設定されている。具体的には、「灰色ゾーン侵害対応」「即応戦備展開」「戦略的コミュニケーション運用」「動員部隊の戦力再生」「多層的防御配置」「新装備の作戦効率」「後方支援の改善」「軍民統合運用」となっており、なかでも無人機関連の装備が注目されている。
6月17日には、中山科学研究院が米防衛技術企業Auterion社と協議を結び、同社のオペレーティングシステムやクラスタ技術の導入を決定した。Auterionは米国防総省と協力関係にあり、ウクライナ戦場でも無人機ソフトウェアとして実績がある企業である。
この提携の背景には、バイデン政権時代の国家安全保障戦略に基づく、同盟国との産業基盤の連携強化方針がある。当時の蔡英文政権は、民主国家同士の供給網構築を進めていた。
しかし、トランプ政権に交代してからは状況が一変した。情報筋によれば、トランプ氏は「アメリカ製」に強くこだわり、半導体産業の国内回帰を推進。そのため、民主的な供給網構想とは軋轢が生じ、台湾の防衛産業界にも懸念が広がったという。

「MAGA(Make America Great Again)」を掲げるアメリカのトランプ大統領は、「アメリカ製造」を極めて重視している。(写真/AP通信)
米元司令官が再訪し道を開く 台湾との技術移転が本格化
台湾の国防研究機関である中山科学研究院と、米防衛テック企業Auterionとの協定により、米台間での技術移転協力が正式にスタートした。その背景には、元米インド太平洋軍司令官のジョン・アキリーノ氏の動きがあるという。
事情に詳しい関係者によれば、アキリーノ氏は2024年から2025年の5か月の間に2度にわたり台湾を訪問し、頼清徳総統や国防部長と面会。その場で台湾側が技術移転の必要性を訴え、アキリーノ氏はこれを本国に持ち帰ったうえで、最終的に合意を取り付けたという。これにより、台湾による単なる米国製品の購入という関係から、連携による自立的開発への道が拓かれた。
中科院は台湾に適した技術モデルの開発を目指しており、その過程で供給網の強化も計画されている。関係者は「もし台湾単独の意思であれば、Auterionが契約することはなかっただろう」と語る。これは両政府の了解に基づいた動きであるという。なお、Auterionの技術はウクライナでの実戦にも活用されてきたが、それをそのまま台湾に適用できるわけではない。米国防総省のイノベーション部門(DIU)は現在、50〜250kmの航続距離を持つドローンを開発中であり、部品の高性能化が求められている。米国はこの量産を中国ではなく台湾の供給網に委ね、コスト削減を目指している。

Auterionは米国とドイツに拠点を持ち、そのソフトウェアはウクライナの無人機がロシアとの戦闘任務に使用されている。写真はウクライナ軍FPV無人機の保管区域。(写真/AP通信)
日本からの参画 元制服トップが台湾入りの意義
もうひとつ注目を集める動きが、日本の元自衛隊統合幕僚長・岩崎茂氏の台湾入りだ。現在、行政院顧問に就任しているが、日台間に正式な防衛協定がない中で、なぜ彼が来台したのか。事情に通じた関係者によれば、これは無人機の開発において、日本の化学およびカメラ技術の優位性が関係しているという。
特に無人機の航続距離には高性能バッテリーが必要であり、日本の化学技術はこの分野で強みを持つ。また、無人機の「目」となる赤外線カメラも、日本のセンサーチップは台湾より高性能だとされている。台湾側はこれらの要素を取り入れるべく、新たなサプライチェーン構築に向けた「晶創計画」を進行中である。
アキリーノ氏と岩崎氏の動きは、米日両国が台湾の戦略的製造拠点としての価値を認識していることの現れだ。米日が高度な技術を移転し、台湾がそれを安価に製造する——この三者連携は、戦略的にも経済的にも理にかなった動きといえる。なお、両氏は現在、退役後にそれぞれロッキード・マーティン社と三菱重工業の要職に就いており、その活動は実質的に米国・日本政府の代行として機能していると見られている。

三菱重工がAI搭載の戦闘支援無人機モデルを初公開した。また、大型輸送無人機も出展された。(写真/黃信維撮影)
漢光演習の背後にあった米日協力 元将官らが台湾軍に戦略助言
台湾の大規模軍事演習「漢光41号」のコンピューター兵棋演習が今年4月に実施された際、台湾軍は元米韓連合司令官であるロバート・エイブラムス退役四つ星将軍を参謀総長の顧問として招へいした。だが、実際にはアキリーノ氏および岩崎茂氏も、非公式ながら演習に関与し、戦略面で支援を行っていたという。
興味深いのは、アキリーノ氏と岩崎氏の両者がともにパイロット出身であることだ。アキリーノ氏は米海軍出身で、第11攻撃戦闘機隊に所属し、「トップガン」で知られるF-14A/BトムキャットやF-18ホーネット戦闘機を操縦していた。台湾の国防部長・顧立雄氏は2025年4月30日に彼を迎え、台湾との軍事交流強化およびインド太平洋地域の平和への貢献を評価し、「三等雲麾勲章」を授与した。

今年4月末、顧立雄国防部長(左から)が前米インド太平洋軍司令官のアキリーノ氏に「三等雲麾勲章」を授与した。(写真/軍聞社)
非対称戦への強力な支援 アキリーノの構想
アキリーノ氏がインド太平洋軍司令官を務めた2021年から2024年は、米中関係が激化し、「戦略的曖昧さ」から「戦略的明確さ」への転換期にあたる。彼は就任直後の2021年4月、米上院で「中国の台湾統一はこの地域における最も差し迫った脅威」と明言し、即時監視体制や共同演習、ミサイル防衛、分散配備といった統合抑止システムを提唱した。
さらに、台湾における非対称戦力の整備を支持し、「ハリネズミ戦略」や国産無人機・ミサイルの開発、徴兵期間の延長などにも前向きな姿勢を示していた。
一方、2025年3月に台湾行政院顧問に就任した岩崎茂氏は、航空自衛隊の第201飛行隊長を経て、航空幕僚長、統合幕僚長などを歴任。過去には米軍との共同作戦体制構築に貢献し、米統合参謀本部議長だったダンフォード氏との会談を重ねて、第一島嶼チェーンにおける日米共同防衛体制の基盤を築いてきた。

日本の元統合幕僚長である岩崎茂氏が、台湾の行政院顧問に就任したことが大きな注目を集めている。(写真/顏麟宇撮影)
「台湾問題は日本問題」 日本の軍事トップが警鐘を鳴らした理由
岩崎氏は自衛隊時代、中国軍機の領空接近に対して頻繁に緊急発進を指揮した経験を持つ。その知見を活かし、台湾に対しても中国の軍事行動の透明性の欠如や、日本に対する挑発行為の増加について警鐘を鳴らしてきた。
彼の在任中には「台湾問題は台湾だけの問題ではない」という報告書がまとめられ、中国軍機が第一島嶼チェーンを周回し、台湾東方の防空識別圏に接近している状況を日米双方に報告。このコンセプトは、岩崎氏自身が安倍晋三元首相に提案したとされている。
現在も中国の軍事拡張は続いており、両空母が第二島嶼チェーンを越境し、米国主導の島チェーン封鎖戦略に挑戦している。これに対抗する形で、日本は2025年3月24日、陸海空統合の「統合作戦司令部」を創設。米インド太平洋軍との直接連携が可能な体制を整備した。
日米両国が今後、台湾支援にどのように動くかは依然不透明な部分もあるが、舞台裏ではすでに動き始めている。戦略構想の立案から装備開発、演習指導に至るまで、アキリーノ氏と岩崎氏という2人の「影の将軍」が、台湾を取り巻く軍事環境を大きく変えつつある。台湾をめぐる静かな緊張は、なお続いている。