米連邦最高裁判所は20日、ドナルド・トランプ大統領が第2次政権下で「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠に推進してきた関税政策の大部分を無効とする歴史的な判決を下した。
これは「MAGA(Make America Great Again)」経済学への痛撃となるだけでなく、ホワイトハウスが高率関税を武器に各国から勝ち取った貿易協定の先行きを不透明にするものだ。米紙『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は21日、この違憲判決とトランプ氏が即座に打ち出した「プランB(代替案)」を受け、主要経済国にどのような影響が及ぶかを分析した。
強硬な「関税ディール」の崩壊とトランプ氏の反撃
トランプ氏が貿易協定を迫るロジックは極めて単純かつ強引だ。まず天文学的な数字の関税を突きつけ、署名に応じることでそれを15〜20%程度に引き下げる。その見返りとして、相手国に巨額の対米投資や貿易上の譲歩を約束させるという手法である。
連邦最高裁はこの手法を違憲と断じたが、トランプ氏がおとなしく従うはずもなかった。判決後の記者会見で、トランプ氏は直ちに一律10%の「世界的関税」を課すと宣言。その後、SNSを通じてその税率を15%に引き上げると表明した。
司法権による制衡(チェック・アンド・バランス)に対し、行政権が法の隙間を縫って対抗する。この憲政と貿易の危機において、主要国はどのような局面に立たされているのか。
中国:多層構造化する「関税の壁」
トランプ氏の貿易戦争における最大のターゲットは、一貫して中国である。ここ数年、中国の対米輸出品には何層もの関税が重なり、同紙はこれを「積み上げ可能(stackable)」な構造と評している。
最高裁の判決により、その「層」の一部は剥がれ落ちた。例えば、10%の普遍的関税や、医療用麻薬「フェンタニル」の流入阻止失敗を理由とした10%の懲罰的関税などがそれにあたる。しかし、以下の制裁関税は依然として維持されたままだ。
- 中国製電気自動車(EV): 100%の壊滅的な関税
- 鉄鋼・アルミニウム製品: 50%以上の重税
「迂回輸出」による中国の生存戦略
米中間の地政学的駆け引きも続いている。トランプ氏と習近平国家主席は昨年10月に韓国で会談し、貿易戦争の一時休戦に合意。今年3月末には北京での再会談も予定されている。
しかし、既存の関税障壁の影響は甚大で、昨年の中国の対米輸出は約5分の1も激減した。これに対抗するため、中国側は「原産地ロンダリング(産地偽装)」とも言える柔軟な戦略を展開している。
台湾:「シリコンの盾」への影響と半導体供給網の行方
台湾の国民にとって最大の関心事は、トランプ氏による貿易戦がTSMC(台湾積体電路製造)をはじめとする半導体産業に及ぼす影響だ。米国と台湾は2月12日、数カ月にわたる交渉を経て貿易協定を締結したばかりである。
この協定に基づき、台湾側は米国での半導体・先端技術製造分野に対し、2500億ドル(約39兆円)規模の投資を約束。その見返りとして関税優遇措置を取り付けた。税率を15%に抑えるべく、台湾当局者は計6回にわたりワシントンへ飛び、粘り強い交渉を重ねてきた経緯がある。
『ニューヨーク・タイムズ』は、台湾経済の生命線であるコンピュータチップや電子部品について、今回の「関税大乱闘」を大部分回避できたと分析している。これらの製品は「電子製品免除(electronics exemption)」の対象となっており、トランプ氏による関税打撃の範囲外にあるためだ。米最高裁が一部の関税を無効化したものの、台湾への直接的な影響は限定的とみられる。影響を受けるのは主にプラスチック、繊維、農産物であり、これらは台湾の対米輸出全体のごく一部に過ぎないからだ。
欧州連合(EU):グリーンランド問題を巡る不条理劇
米中関係が「新冷戦」の様相を呈しているならば、米欧関係は一種の「不条理劇」に近い。EUは昨年、対米関税の上限を15%に抑えることで合意した。その条件として、7500億ドル相当の米国産エネルギー購入と、計6000億ドルの対米投資の積み増しを約束させられている。
しかし、この協定の履行は遅滞している。トランプ氏が「グリーンランド(Greenland)」の譲渡問題を巡り、欧州諸国に対してさらなる高率関税を課すと威嚇したためだ。
今回の米最高裁による違憲判決を受け、欧州側には困惑が広がっている。ドイツ産業連盟(BDI)はEUに対し、現行の貿易協定が法的判決後も有効であるか、トランプ政権に早急に確認(「明確化」)するよう強く促した。欧州議会は来週にも協定の批准に向けた採決を行う予定だったが、すべてが宙に浮いた状態となっている。
日本と韓国:東アジア同盟国が強いられた「不平等条約」の行方
アジアにおける米国の最重要同盟国である日本に対し、トランプ氏は昨年、最大35%という高率関税を武器に強硬な姿勢を示した。これを受け、日米両政府は昨年7月、日本側が計5500億ドル(約82.5兆円)規模の米国プロジェクトを支援する代償として、対米輸出製品の関税を15%に維持する枠組みで合意した。
今回の米最高裁による違憲判決を前にしても、日本の当局者らは米国との再交渉の余地はないと静観していた。日本政府はこの巨額の「保護料」とも呼べる投資を国民に納得させるため、一連のプロジェクトを「ウィン・ウィン」として包装している。先日発表された第1弾の投資(総額360億ドル)の大部分は、オハイオ州の天然ガス発電所建設に充てられる。これは、トランプ氏の支持基盤である「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」への露骨な配慮と言えるだろう。
韓国の状況はさらに複雑だ。韓国政府は昨年10月、対米投資3500億ドルの約束と引き換えに、関税を当初予定の25%から15%に引き下げることで合意した。SKハイニックスやサムスン電子も対米投資の積み増しを表明している。
しかし『ニューヨーク・タイムズ』によれば、トランプ氏は先月、「韓国国会の承認が遅すぎる」として突如態度を硬化させ、関税を25%に戻すと威嚇した。ソウル当局は「最善を尽くしている」と釈明しているが、韓国内の与野党対立が承認プロセスを遅らせているのは事実だ。
東南アジア:米中対立が生んだ「予期せぬ勝者」
東南アジアは、トランプ政権第1期におけるサプライチェーンの移転によって最大の受益者となったが、それゆえに第2次政権の標的にもなった。昨年春、トランプ氏は同地域に対し、カンボジア49%、ベトナム46%、タイ36%、インドネシア32%という世界最高水準の関税を課すと威嚇した。
その後、トランプ氏は一転して税率を段階的に引き下げており、インドネシアは最近、マレーシア、カンボジアに次いで新たな関税協定に署名した。
同紙は、今回の最高裁による違憲判決が新たな不透明感をもたらした一方で、東南アジア諸国にとっては「一息つく余裕」が生まれたと分析している。ベトナム、カンボジア、インドネシアはすでにスニーカー、家具、衣類の主要な製造拠点となっており、関税の緩和はいかなる形であれ、これら製造業にとっての追い風となるからだ。
カナダとメキシコ:USMCAという「防護壁」の強みと懸念
大西洋や太平洋の向こう側で広がる焦燥感とは対照的に、米国の隣国であるカナダとメキシコは比較的冷静な構えを見せている。今回の連邦最高裁判決による両国への直接的な影響は限定的だ。その最大の理由は、両国からの輸出製品の大部分(カナダは90%、メキシコは80%)が「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」によって保護され、免税状態にあるためだ。
現在、両国に対して課されている関税は、鉄鋼、アルミニウム、大型トラック、針葉樹材などの特定品目に集中しており、これらは今回の最高裁判決の対象外となっている。
しかし、両国の当局者が楽観視しているわけではない。USMCAは間もなく厳しい再審議の時期を迎える。司法の場で関税政策を否定され、面目を潰された形のトランプ氏が、その不満の矛先を隣国に向け、さらなる圧力をかけてくるのではないかという懸念は、依然として払拭されていない。
英国とインド:ブレグジット後の賭けとロシア産石油のジレンマ
英国は昨年、トランプ氏と貿易協定を締結した最初の国となった。これはブレグジット(EU離脱)後の外交における重大な勝利と見なされていた。この協定により英国製自動車の関税は引き下げられ、基礎関税は10%に設定された。
しかし、交渉の現場には火種が残っている。英国側が鉄鋼関税のさらなる引き下げを求めているのに対し、トランプ政権は米国産農産物の輸入拡大を強硬に要求。さらに、英国独自の「デジタルサービス税」に対する米国の不満も根深く、両国の足並みは必ずしも揃っていない。
一方、インドに対してトランプ氏は、最大50%に達していた懲罰的関税を18%にまで引き下げる譲歩を見せた。その引き換えに米国が突きつけた条件が「ロシア産石油の購入停止」である。
データによればインドのロシア産石油購入量は減少傾向にあるものの、完全な停止には至っていない。加えて、インドは今後5年間で5000億ドル相当の米国製品を購入することを約束したが、米国側が「農産物」をリストに加えるよう要求したことで事態は複雑化している。農産物市場の開放は、インド国内の強力な政治勢力である農民団体の逆鱗に触れる問題であり、モディ政権にとって極めてデリケートな課題となっている。