評論:新台湾ドルが急騰 背景に米台交渉の「静かな取引」か

2025-07-03 16:53
最近、鄭麗君行政院副院長が率いる代表団がワシントンを訪れ、2度にわたる台湾と米国の実務交渉が行われる中、新台湾ドルの為替レートが「暴力的に上昇」し、市場で憶測を呼んでいる。(写真/劉偉宏撮影)
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アメリカのトランプ大統領が推進する「相互関税」制度の猶予期間が7月9日に終了を迎える中、米国と台湾の貿易交渉が合意に近づいているとの報道が出ている。台湾の鄭麗君副行政院長は、台米間の交渉において建設的な進展があり、「互利共栄」の結果に期待していると述べた。注目すべきは、その「共栄」の瞬間に、新台湾ドルの為替レートが急騰した点だ。

ワシントンへの訪問交渉で台湾政府全力を投入

米国は台湾に対して32%の「相互関税」を課す計画を進めており、台湾政府は経済部、財政部、農業部、衛生福利部、国家安全会議など各機関の代表を派遣するなど、全面的に対応してきた。4月11日には初のビデオ会議を実施、4月末から5月初頭にはワシントンで初の実地協議、6月25日にも再度代表団が米国入りして交渉を行った。

特に5月1日の初回実地協議の直後、為替市場では驚きの動きがあった。新台湾ドルは1.247元も急騰し、14年ぶりの上昇幅を記録。中央銀行が取引終了前に介入したにもかかわらず、最終的に9.53角の上昇が確認された。総統の賴清徳氏や中央銀行総裁の楊金龍氏もこの急変に驚きを隠せなかった。

交渉には為替問題が含まれていないとされているが、台湾政府は市場の信頼を維持するため、米国からの為替介入要請はないと明言しつつも、投機筋への警戒も呼びかけた。

中央銀行の沈黙が示す「政治的配慮」?

6月25日に実施された二度目の実地協議では、鄭麗君副院長が米国通商代表のジェイミソン・グリア氏、商務長官のハワード・ルートニック氏と面会し、交渉が「互利共栄」の方向で前進していると確認した。

ちょうどこの時期、新台湾ドルは24日から26日にかけて5.69角も上昇。27日には一時28元台まで強まり、介入によって29.18元まで戻されたものの、7月1日には再び7.17角上昇し、29.2元を突破した。

鈔票 新台幣 千元鈔票 百元鈔票 1000元 錢(示意圖/取自photoac)
紙幣、新台湾ドル(千元札、百元札、1000元札)のイメージ。(イメージ写真/photoACより)

台湾中央銀行を含むアジア各国の中央銀行は、こうした通貨高を黙認する姿勢を見せており、為替変動が「秩序立っている」限り、上昇傾向はしばらく続く可能性があるとされている。

こうした中、中央銀行が大規模な介入を見送ったことが市場の憶測を呼んでいる。その一つが、政治的な配慮として、トランプ政権が台湾を「為替操作国」に指定し、関税交渉の材料としないようにするためだという見方だ。これが事実ならば、台湾は「静かな合意」のもとで、自国通貨と輸出産業の利益を一部犠牲にした可能性がある。

「5セントで1ドル」 台湾が差し出す代償

為替レートだけでなく、米国の「232条項」こそが最も重要な焦点である。「232条項」は米国貿易拡張法に基づき、米商務省が特定の製品の輸入が国家安全保障に脅威を与えるかどうかを調査し、大統領が関税引き上げや輸入制限などの措置を取ることを可能にする制度だ。 (関連記事: 為替市場に緊張感 トランプ氏の圧力で新台湾ドル高、円とウォンは異常な低迷 関連記事をもっと読む

現在、米国がこの「232条項」を台湾の半導体に適用するか否かが大きな関心事となっている。台湾側は5月7日に意見書を提出し、もしチップへの関税が発動されれば、サプライチェーンが分断される恐れがあると警告した。そのため、今回の台米交渉でもこの問題が協議された可能性があると見られている。