インタビュー》台湾海峡の緊張はなぜ続くのか 野党幹部・元高官インタビューで見えた対話の壁

2025-07-02 18:25
蕭美琴氏が「ノルウェー国営放送」のインタビューで現状維持と憲法擁護を強調した。(総統府公式サイトより)
蕭美琴氏が「ノルウェー国営放送」のインタビューで現状維持と憲法擁護を強調した。(総統府公式サイトより)
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台湾の蕭美琴副総統は最近、海外メディアのインタビューに応じ、「中華民国憲法を守り、現状を維持する」と強調した。これに対し、中国国民党の副主席である夏立言氏は、風傳媒のインタビューで「馬英九政権時代の両岸関係は平和と繁栄にあった」とし、現在の民進党政権下では「戦争の危機」に直面していると主張。「現状維持」という言葉の意味を明確にしなければ、国民を欺くことになると厳しく指摘した。

蕭氏は《ノルウェー国営放送》のインタビューで「台湾の人々から与えられた憲政上の責任に基づき、中華民国憲法を守っている」と発言。また米国のポッドキャスト番組「Shawn Ryan Show」では、「現状維持は中国を含むすべての関係者にとって最善の利益にかなう」と語っている。

蕭美琴副総統受け入れる「ノルウェー国営放送」インタビュー。(総統府公式サイト)
蕭美琴氏が「ノルウェー国営放送」のインタビューで現状維持と憲法擁護を強調した。(総統府公式サイトより)

馬政権時代の現状とは 交渉・協力で築かれた安定

夏氏は蕭氏の発言を「注目に値する」としつつも、実際には民進党政権が過去の現状を大きく変えたと批判する。特に、賴清徳総統が打ち出した「団結国家十講」は、「中華民国憲法」との整合性を欠いており、国民に混乱を与えていると指摘。「同じ政権内の発言で、どちらを信じればよいのか」と疑問を呈した。

夏氏によれば、蔡英文氏が2016年の総統選で勝利した際に掲げた「現状維持」も、前提となっていたのは馬英九政権が構築した対中政策だった。馬政権期には両岸間で23の協定が締結され、その中には犯罪対策や司法協力、知的財産権など、敏感な分野の合意も含まれていた。観光や経済交流も活発で、台湾の社会・経済発展に寄与したという。

2010年にWHAに参加した前衛生署長楊志良氏、出席が存在を意味すると述べる。(資料写真、顏麟宇撮影)
2010年、馬英九政権下でWHA(世界保健総会)への参加を率いた楊志良元衛生署長は、「出席が存在を意味する」とコメントした。(写真/顏麟宇撮影)

氏はさらに、馬政権下で台湾の国際的な存在感が高まったと語った。邦交国の数はほぼ維持され、当時の衛生部長が世界保健機関(WHA)に8年間出席し、民航局長も国際民間航空機関(ICAO)に参加。大陸との間で締結されたECFA(経済協力枠組み協定)に加え、シンガポールやニュージーランドとの自由貿易協定も実現した。ビザ免除や取得可能国は50カ国から150カ国以上へと拡大し、APECには副総統経験者が代表として参加した。

これらの実績に対し、民進党政権は主権の維持を訴えているが、夏氏は「主権とは、国交承認、国際組織への参加、協定締結といった具体的な成果によって裏付けられるべきだ」と述べた。馬政権期は、まさにそれらが達成された時期であり、台湾海峡における軍事的緊張も見られなかったと指摘した。

馬政権期には、両岸の政府間で正式な官職を用いた会談が行われ、両岸事務担当者は計6回にわたって接触したという。初回は陸委会主委の王郁琦氏と、中国大陸側の国台弁主任・張志軍氏がAPECの場で会談。その後も4回の「両岸事務首長会議」が開かれた。

夏氏自身も張氏と3度の会談を行い、その延長線上で2015年の「馬習会(馬英九・習近平会談)」が実現した。こうした公式対話の積み重ねが、両岸関係の安定につながっていたと強調している。 (関連記事: 驚きの発言!馬英九氏が中国訪問で両岸の「平和的民主統一」を主張 関連記事をもっと読む

2015年の馬習会、馬英九と習近平。(林瑞慶撮影)
2015年、馬英九氏と習近平氏がシンガポールで両岸指導者会談を実現した。(写真/林瑞慶撮影)

夏氏は、上記を総合すると、馬英九政権時代の台湾は「両岸関係」「国際社会での立ち位置」「台湾海峡の安全」の3点において、安定と繁栄を実現していたと強調。これこそが当時の「台湾海峡の現状」であり、国際社会もこの状態を好ましく受け止め、「台湾海峡の問題」としては扱っていなかったと語った。蔡英文氏が2016年に掲げた「現状維持」というスローガンも、この安定した現状を前提にしたものだったという。

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