日米間の貿易交渉が難航している。トランプ大統領は6月30日、日本に対し貿易赤字の削減を強く要求し、「米が不足しているのに米国産米を買わない」「甘やかされている」と批判した。さらに、7月9日には「貿易協定を終わらせる通知」を出すとまで警告している。
交渉の期限が迫る中、支持率が低迷する石破茂内閣は、国内政治の混乱にも直面し、参議院選挙で苦戦を強いられている。石破茂首相は6月30日、日経アジアのインタビューを受け、米国の石油購入を検討し、将来の交渉の駆け引きを考慮していると述べた。
「米不足なのに買わない?」トランプ氏が対日姿勢を強化
アメリカのトランプ大統領は6月30日、SNS上で日本が米不足に直面しているにもかかわらず、米国産米の輸入に消極的な姿勢を示していることを批判し、「日本は甘やかされている」と強い表現で不満をあらわにした。この発言を受け、東京株式市場は敏感に反応し、日経平均株価は0.8%下落した。
また、トランプ氏は7月9日に期限を迎える「対等関税」政策の猶予期間終了に合わせて、すべての貿易相手国に対して今後の関税方針を記した「手紙」を送る方針を明らかにした。7月1日に放映されたフォックスニュースのインタビューでは、この手紙が「すべての貿易協定の終結を意味する」と述べ、市場に大きな動揺をもたらした。この報道を受けた翌日、日経平均はさらに501ポイント下落した。
ブルームバーグによれば、日本国内の米価格は過去1年間で倍増し、政府は需給バランスの調整に追われている。消費者の不満も高まり、農林水産大臣を務めていた江藤拓氏は「米を買ったことがない」との発言が批判を浴び、辞任に追い込まれた。
石破茂首相率いる日本政府は、緊急対応として備蓄米を市場に放出し、流通経路の見直しを進めている。米国産米の輸入拡大は需給の安定に寄与する可能性があるが、石破政権は農業関係者の反発と世論の圧力に直面しており、少なくとも7月20日の参議院選挙までは、関税引き下げを交渉材料とする余地は乏しいとブルームバーグは分析している。

日本の九州、日向市のスーパーで、白米が棚に並べられ、「米の供給量が不足しています。ご家庭ごとに1袋限定」と表示されている。(AP通信)
交渉は平行線 石破政権は選挙後の再開を模索か
石破氏の側近であり交渉代表を務める赤澤亮正氏は、6月26日から29日まで米ワシントンを訪問し、貿易協定に関する第7ラウンドの交渉を行った。帰国後の発言によれば、米国との巨大な貿易赤字については合意に至らなかったという。今回の交渉では、スコット・ベッセント米財務長官や、通商代表ジェイミソン・グリア氏との面会は実現しなかったとされる。赤澤氏は「日本の利益を守りながら、双方に有益な合意を模索する姿勢に変わりはない」と述べ、交渉継続の意志を示している。
米国の政治リスクに詳しいコンサルタント、デビッド・ボーリング氏は6月30日、米笹川平和財団のセミナーで「交渉とは競技のようなもので、主導権を握ることが鍵になる」と指摘。赤澤氏がG7サミット期間中に積極的に米政府関係者と接触を図ったことが、トランプ・石破会談への布石になったとの見方を示した。
ただし、日本は現在、参院選を目前に控えており、石破首相としても国内の政治的安定を優先する立場にある。このため、選挙前に「不平等」と見なされかねない通商協定を急いで締結する可能性は低く、交渉の本格的な再開は9月以降にずれ込むとの観測が強まっている。

2025年4月16日、日本の赤澤亮正経済再生担当大臣とトランプ米大統領がホワイトハウスで面会した。(日本内閣官房ウェブサイトより)
対日自動車25%関税譲歩せず
トランプ政権は現在、すべての貿易相手国に対して一律10%の関税を課しているが、7月9日以降、日本に対しては自動車および部品に25%、鉄鋼とアルミニウムには50%の関税を課す方針を明らかにした。ドナルド・トランプ大統領は、自動車に対する25%の関税について「譲歩しない」と断言。対象産業をさらに拡大する可能性も示唆している。
これに対し、日本側は米経済への貢献として、希少土類の供給や中国による輸出規制への協力を申し入れ、自動車関税の免除および「対等関税」24%の撤回を求めたが、トランプ氏からの支持は得られなかった。
トランプ氏は6月29日、米フォックスニュースのインタビューで「日本は我々の車を買わず、数百万台の日本車を米国に輸出している。これは不公平だ」と述べ、日本との貿易赤字の即時削減を強く求める姿勢を示した。日経新聞は、日本側が造船や航空機分野での協力を提案したものの、目に見える成果を出せず、交渉が行き詰まっていると指摘している。

横浜港に停泊し、出荷を待つ日本車。(AP通信)
エネルギー分野にも圧力 中東リスクで米原油輸入を検討
自動車と稲作に加え、トランプ氏はエネルギー分野にも日本に対する要求を拡大。米国産原油の輸入拡大を日本に促している。石破茂首相は6月30日付の日経のインタビューで、米原油の購入について「現実的な選択肢」としつつも、価格や原油の種類を慎重に評価する必要があると述べた。
また、トランプ氏は日本および韓国に対し、アラスカのガス田への投資を呼びかけており、日本はこれをエネルギー供給多様化の観点から検討している。
こうした動きの背景には、中東の地政学的な緊張がある。日本は石油の約9割を中東に依存しており、従来はイランとの良好な関係を維持してきたが、米国が6月にイランの核施設を攻撃したことで、ホルムズ海峡周辺の緊張が高まり、エネルギー安全保障が改めて課題として浮上している。
石破氏は、こうしたリスクに対応すべく、再生可能エネルギーや原子力、水素といった脱炭素エネルギーへの移行を推進する考えを示した。具体例として、山口県の石化産業団地を水素・アンモニア拠点へ転換する計画を挙げ、エネルギー危機を産業転換の機会に変える方針を打ち出している。

日本とイランの関係は深い。2023年8月7日、日本の菅義偉前首相がイランのホセイン・アミラブドラヒアン前外相と東京で会談した。(AP通信)
防衛費圧力も強まる 交渉中止とサミット欠席に波紋
日米関係の緊張はすでに表面化していた。石破氏は6月24日のNATO首脳会議を欠席し、さらに7月1日に予定されていた外務・防衛閣僚による「2+2」協議も中止となった。一部では、これは米国が日本に対して国防支出の大幅な引き上げを求め、日本側が応じなかったことが理由とみられている。米国は6月22日、同盟国に対して防衛予算をGDP比5%まで引き上げるよう要請。これを関税緩和の条件にしたとされている。
日本は長年、防衛費をGDPの1%に抑えてきたが、2025年には1.8%、2027年には2%への引き上げを予定している。しかし、5%という水準は、財政赤字の大きい日本にとっては現実的な負担ではない。
石破氏は6月23日の会見で、「防衛費はGDP比に縛られるべきではなく、日本が必要とする水準を自ら判断すべき」との考えを示している。
一連の貿易交渉は明確な成果を出せておらず、米国からの圧力が続く中で、国民の不満も高まっている。物価上昇や生活コストの負担、賃金の伸び悩み、政治スキャンダルなどが重なり、石破政権の支持率は低迷を続けている。
6月22日に実施された東京都議会選挙では、与党・自民党が過去最悪の成績を記録。7月20日に予定される参議院選挙でさらなる敗北を喫すれば、石破氏が辞任圧力に直面する可能性もある。